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第1486話

 意図せず、身体がぶるっと震えた。  夜の寒気なのか、それともただならぬ気配を無意識に感じ取ったのかはわからない。  馬の(いなな)きが聞こえてからは、山はシーン……と静まり返ったまま、何の気配も感じなくなっていた。  ――どうしよう……どうするのが正解なんだ……?  進むべきか、引き返すべきか。  兄の行方がわからない以上、行ってみれば何かしらの手がかりは得られるかもしれない。その反面、とんでもない罠に引っ掛かって自分が家に帰れなくなる可能性もある。  その場に立ち止まり悩んでいると、ピピが服の裾を引っ張ってきた。 「ぴー……」  ぐいぐいと後ずさりし、「やめとこうよ」と首を横に振るピピ。  神獣であるピピがそう言うのだから、これ以上近づいてはいけないのだろう。獣の直感はよく当たるから、アクセルの下手な推測より余程信用できる。  だけど、だけど……。 「……いや、わかってるよピピ。この先に進んだって、兄上がいるとは限らない。多分、引き返すのが正解なんだろう」  アクセルはピピを撫でながら、諭すように言った。 「それでも……それでも、一パーセントでも兄上がピンチに陥っている可能性があるのなら、行かないわけにはいかない。引き返して兄上と二度と会えなくなるのなら、俺自身が罠にかかった方がずっとマシだ」 「ぴぃぃ……!」 「もちろん、何の策もなく進むわけじゃない。すぐに引き返せるように、進む道にサイジの実の汁を擦り込んでいく。それならいいだろ?」 「ぴー! ぴー!」  それでもピピは、「ダメに決まってるでしょ!」と首を振り続けている。  対策案を出しても反対されるということは、余程の危険を感じているということか。  というか、より強く服の裾を噛まれて振り解けない。意地でも行かせる気はないようである。  ――兄上……。  半ば泣きそうになりつつ、心の中で兄を呼んだ。  俺は一体どうすればいいんだ。進むこともできない、引き返すのも悔やまれる。あなたがこんな時間まで帰って来ないのは、手に負えない何かが起きたってことなんだろう?  だったらやっぱり、俺は助けに行きたい。

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