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第1488話

 確かに、兄が帰って来なくて半ばパニックになっていたのは否めない。  居てもたってもいられず、こんな夜なのに危険な山に入ってしまったし、それより更に危険な場所に進もうとした。落ち着いて考えれば無謀な行動だと誰でもわかるのに、冷静さを欠いてそのまま突っ走ってしまった。  ――そうだよな……。ピピの言う通りだ。  自分もどうかしている。いい大人が情けないし、恥ずかしい。ピピにも迷惑をかけてしまった。 「……ごめん、ピピ。もう大丈夫だ。どいてくれるか?」 「ぴ……」 「本当に大丈夫だ。ピピに言われて目が覚めたよ」  真っ直ぐピピを見上げたら、ピピはそろそろと上から退いてくれた。  アクセルはゆっくり立ち上がり、ふかふかの体毛に寄りかかった。 「ごめんな。確かに俺、冷静じゃなかった。ピピがいなかったら、また盛大に失敗していたと思う。止めてくれてありがとう……」 「ぴー」 「兄上のことは心配だけど……本当は一刻も早く捜しに行きたいけど……でも、兄上は俺より遙かに強いし冷静だからな……。今もきっと無事でいるはずだ……」  自分に言い聞かせるように言ったら、ピピも「うんうん」と頷いてくれた。 「明日、明るくなったらまた捜しに行こうな。朝になったら兄上も動き始めるはずだし、捜索もしやすくなる。何なら、俺が見つけるより先に兄上の方が家に帰って来るかもな」 「ぴー」  ピピが身体を擦り寄せてきたので、アクセルも優しく撫でてやった。  ――しかしスレイプニルの山か……思った以上にヤバい場所だったな……。  最初は普通に奥まで入っていくつもりだったけれど、余所者を寄せ付けないような雰囲気があった。馬の(いなな)きが聞こえてからは、余計にそう感じた。  あれがスレイプニルの迫力なんだろうか。何にせよ、下手に近づいたら無事では済まなかっただろう。  本気で捜索したいなら、きちんと対策を立てて、味方もたくさん誘ってからでないと危険である。  そんなことを考えながら、アクセルは家に戻った。

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