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第1491話
そう言われて、アクセルはやや気後れをした。
一応、麓までは行ってみたから、恐ろしいかどうかくらいはわかっている。本当はもっと奥に踏み込むつもりだったけれど、結局ピピに止められて帰ってきてしまった。
だけど、今思えば止められて正解だった気がする。
実際兄は、アクセルが寝ている間にこっそり帰ってきて、何事もなかったように出て行こうとした。今もロクな事情も説明せず、「お前は家に戻れ」の一点張りで済まそうとしている。
それもこれも、弟を危険な目に遭わせたくないから。
こんな深夜に帰ってきたのも弟に見つかりたくなかったからだし、見つかったら最後、絶対に「何があったんだ」と問い詰められるに決まっている。説明したらしたで「じゃあ俺も行く」と言い出すのが目に見えているし、それを説得しているのも単純なタイムロスだ。
だったら弟に気付かれないうちに仕事を終わらせ、何事もなかったように帰ってくるのが一番だと判断したのだろう。
水臭いようにも思えるが、これが兄なりの親心なのだ。
「……。……わかったよ」
やむなく、アクセルは視線を落とした。本当は兄の手伝いをしたかったけれど、ついて行けないのなら仕方がない。
この場で自分が言えるのは、この一言だけだ。
「……どうか気をつけて。必ず無事で帰ってきてくれよ?」
「うん、もちろん。帰ったらいろいろ説明してあげるね」
ぽんぽんと頭を撫で、兄は颯爽と出て行った。
一人残されたアクセルは、とぼとぼと自分のベッドに戻った。
――また力になれなかったな……。
ベッドに腰掛け、深くうなだれる。
トーナメントで格上に勝利しても、どんなにランクを上げても、肝心な時に自分は何もできない。腕っ節だけ強くなっても意味がないことを、まざまざと思い知らされる。
ランクが低いうちは「俺はまだ下位ランカーだから」とごまかすこともできたが、既に二桁ランクまで上ってしまっては、そのごまかしも通用しないだろう。
きっと自分には、実力とは全く別の何かが足りていないに違いない。
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