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第1492話

「……はぁ」  ずっとベッドに腰掛けていても不毛なので、とりあえず部屋の掃除をすることにした。  何も考えずに黙々とフローリングをモップ掛けし、窓を雑巾で拭いてキッチンや風呂場の清掃も行う。  そうやって家中の大掃除をしていたら、いつの間にか夜が明けていた。  ――兄上、まだかな……。  遺体を回収するとか言っていたが、そんなに時間がかかるんだろうか。危険な山だから慎重になっているんだろうか。  無事に帰ってきてくれればいいが、万が一……万が一兄まで一緒に遺体になってしまったらどうしよう……。  不安でいっぱいになりそわそわしていると、ようやく兄が帰ってきた。 「ただいま」 「あっ……! お帰り兄上! 無事でよかっ……え?」  玄関の兄を迎え出たら、驚愕で目が丸くなった。  兄の白い衣装は至る所が血で汚れており、片マントも一部ほつれている。兄自身が出血しているわけではなさそうだが、それにしても悲惨な状態だった。 「だ、大丈夫か? 衣装がボロボロなんだが……何があったんだ?」 「遺体を回収してたらいつの間にか汚れちゃったの。私が怪我したわけじゃないから気にしないで。後で全部洗濯するの、面倒だけどさ」  あっけらかんと語る兄。そしてちょいちょいと手招きしてきた。 「そんなことよりお前、ちょっと手伝ってくれない? オーディン様の館の前で遺体の仕分けをしてるんだ」 「? 遺体の仕分け? どういうことだ?」 「行ってみればわかるよ」  言われるまま、アクセルは兄の後ろをついて行った。  オーディンの館の前では朝早くから人がそれなりに集まっており、何かの作業をしていた。  朝一番の市場に少し雰囲気が似ている気がしたが、近づくにつれて強烈な血と肉の匂いが漂ってくる。 「え……なん、……ええ?」  行われていることをよく見たら、そこでは文字通り血みどろのバーゲンセールが開かれていた。  巨大な風呂敷の上に並べられているのは、千切れた手や脚、首など。内臓が露出しているものもあったし、眼球や耳の切れ端だけで持ち主が判別できない部位もあった。

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