1494 / 2206
第1494話
「だけどヴァルキリーの返答は機械的なもので、『既に決定していることです』の一点張りでね……。どうしても予定変更してくれなかったから、やむなく麓だけの調査にしようと思ったんだ。ところが、いざ山に踏み込んだら新人たちが急に高揚し始めて、『オレたちは大丈夫だからもっと奥に行きましょう』だの、『せっかくだから調査ついでに大物を狩りましょう』だの、挙句の果てには『フレイン様って結構臆病者なんですね』なんて言い出す始末でさ……」
それを聞いたら、ちょっとムッとした。
兄は新人たちのことを思って慎重に動いていたのに、なんだその言い草は。失礼な新人どもめ。兄は断じて臆病じゃないぞ。
「それもこれも、スレイプニルの雄叫びを聞いたせいだ。あの馬の声には、戦意を向上させる効果があるからね。ベテランの上位ランカーならともかく、ヴァルハラに来たばかりの新人にはよく効くんだろう」
「え……そうなのか?」
「うん、そうだよ。お前があの山に踏み込むことはないだろうけど、知らなかったなら気を付けて。スレイプニルは本当に恐ろしい神獣なんだ。遠くから雄叫びを聞かせて、相手がノコノコやってきたところを集団で襲い掛かる。基本的に、オーディン様の言う事以外は聞かない。特殊な幻術も使ってくるから、間違っても近づいちゃいけないよ」
そう釘を刺され、かなりドキッとした。心臓が飛び出るかと思った。
――じゃあ、あの時更に奥に進んでたら、俺もこんな風になってたってことか……。
考えれば考えるほどぞっとしてくる。
山の麓に踏み込み、スレイプニルの嘶 きを聞いた直後、急に妙な気持ちが込み上げてきた。戦意が向上したかはともかく、居ても立っても居られない気分になったのは確かだ。どうしても兄を捜しに行きたくて、状況も考えず奥に進もうとした。
それこそが、スレイプニルの罠だったのか。
そうやって獲物を誘い込み、わざと自分のテリトリーに踏み込ませて、最終的に原型を留めないほどぐちゃぐちゃに始末する……。
ともだちにシェアしよう!