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第1502話

 洗濯が終わったので衣類を回収し、籠に詰めて家に戻る。  兄は未だにベッドで寝ており、ちょっと顔を覗き込んでも起きる気配はなかった。それだけ疲れているということだろう。 「……なあ兄上。もし今回のトーナメントで兄上が誰かに挑戦状を叩きつけられたとして、それで万が一あなたの順位が下がっちゃったらどうする?」  呟くように尋ねる。もちろん兄は寝ているので、返事はなかった。  アクセルは兄の隣に腰を下ろし、一方的に喋り続けた。 「わかっていると思うが、俺は生前からずーっと兄上の背を追いかけて来た。早く兄上に追い付きたい一心で、地道に鍛錬してきた。今でも全然追い付いている気はしないけどな。ただ、トーナメントの結果次第では兄上と下位ランカーの順位が逆転してしまう可能性もあるわけで。今更ながらそれに気付いたら、何かこう……妙な気分になってきたんだ」 「…………」 「俺、兄上が上位ランカーじゃなくなるのは純粋に嫌だ。上位七名の中で順位を入れ替えるならともかく、それ以下になるのは悔しいしあり得ないと思ってる。勝手な願いを押し付けて申し訳ないが、俺の中では兄上は常に上位にいる存在なんだ」  物心つく前から、兄は自分より遥かに強かった。アクセルにとってはそれが当たり前だったから、それ以外の環境なんて想像したこともなかった。  だからこそ、その大前提となる世界が崩れてしまうのは、ラグナロクと同レベルの危機であった。たかがランクの上下だが、自分にとってはそれだけ大事なことなのだ。  兄には常に遥か高みの存在でいて欲しい。ランクが下がったり、ましてや自分よりも下になってしまうなどあってはならない。 「だから……あなたもランクが落ちないよう、頑張ってくれよな。ヴァルキリーからの嫌がらせもあるだろうけど、それに負けないように今のランクをキープし続けてくれ。その方が俺も、今よりもっと頑張れるからさ……」

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