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第1514話
「というかお前、暗いのは平気じゃなかったっけ? 狭いのが怖いの?」
「……いや、狭いのも平気だ。でもこの洞窟は何故か苦手で」
「そっか……初めての踏破で余程ひどい幻聴でも聞いたのかな? まあでも、多少の困難はないと鍛錬にならないから、ある程度は我慢しないとね」
「は、はい……」
「じゃ、行こうか」
すっ……と兄が離れていき、前方を歩いていく音が聞こえる。
少しでも離れたら兄が暗闇に溶けていってしまう気がして、アクセルも慌てて兄を追った。あまり離れたくないのに、周りが狭く足元もよくないせいか、いつもの速度で追いかけられないのがもどかしかった。
――マズい……兄上の足音がどんどん遠ざかっている気がする……。
実際にはどれだけ離れているかわからない。視界も利かないし、狭い洞窟に足音が反響してしまうせいで、お互いの正確な位置は不明だ。
けれどアクセルには、兄がどんどん離れて行っている気がしてならなかった。離れれば離れるほど不安が蓄積していって、胸が押し潰されそうな感覚に陥った。
「あ、兄上、待ってくれ……!」
前方に手を伸ばしても、掴み返してくれる手はない。
もしかして自分だけ取り残されてしまったんじゃないか。兄は手の届かない遠い場所に行ってしまったんじゃないか。このまま独りぼっちで彷徨わないといけないんじゃないか。
自分だけここから出られなかったらどうしよう……。
「うう……兄上ぇ……」
震える声で兄を呼んだ。だけど答えてくれる声はなく、自分の声だけが洞窟に反響してしまう。
足音も自分のものしか聞こえなくなり、ますます孤独感が深まっていく。
「情けないねぇ……いい大人が、たかが洞窟踏破でベソかくなんて」
「……!?」
斜め前方から兄の声が聞こえて、アクセルはハッと息を呑んだ。
今のは幻聴か? それとも本物か? どちらでもあり得るから、これだけでは判断できない。
いや、幻聴なら聞き流せば済むけど、もし本当に兄が言っていたらどうしよう。あまりに不甲斐ない弟を見て、本音が出てしまったのだとしたら……。
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