1514 / 2207

第1514話

「というかお前、暗いのは平気じゃなかったっけ? 狭いのが怖いの?」 「……いや、狭いのも平気だ。でもこの洞窟は何故か苦手で」 「そっか……初めての踏破で余程ひどい幻聴でも聞いたのかな? まあでも、多少の困難はないと鍛錬にならないから、ある程度は我慢しないとね」 「は、はい……」 「じゃ、行こうか」  すっ……と兄が離れていき、前方を歩いていく音が聞こえる。  少しでも離れたら兄が暗闇に溶けていってしまう気がして、アクセルも慌てて兄を追った。あまり離れたくないのに、周りが狭く足元もよくないせいか、いつもの速度で追いかけられないのがもどかしかった。  ――マズい……兄上の足音がどんどん遠ざかっている気がする……。  実際にはどれだけ離れているかわからない。視界も利かないし、狭い洞窟に足音が反響してしまうせいで、お互いの正確な位置は不明だ。  けれどアクセルには、兄がどんどん離れて行っている気がしてならなかった。離れれば離れるほど不安が蓄積していって、胸が押し潰されそうな感覚に陥った。 「あ、兄上、待ってくれ……!」  前方に手を伸ばしても、掴み返してくれる手はない。  もしかして自分だけ取り残されてしまったんじゃないか。兄は手の届かない遠い場所に行ってしまったんじゃないか。このまま独りぼっちで彷徨わないといけないんじゃないか。  自分だけここから出られなかったらどうしよう……。 「うう……兄上ぇ……」  震える声で兄を呼んだ。だけど答えてくれる声はなく、自分の声だけが洞窟に反響してしまう。  足音も自分のものしか聞こえなくなり、ますます孤独感が深まっていく。 「情けないねぇ……いい大人が、たかが洞窟踏破でベソかくなんて」 「……!?」  斜め前方から兄の声が聞こえて、アクセルはハッと息を呑んだ。  今のは幻聴か? それとも本物か? どちらでもあり得るから、これだけでは判断できない。  いや、幻聴なら聞き流せば済むけど、もし本当に兄が言っていたらどうしよう。あまりに不甲斐ない弟を見て、本音が出てしまったのだとしたら……。

ともだちにシェアしよう!