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第1518話
「さ、早く洞窟抜けちゃおう。あまり長居しても泥まみれで気持ち悪いしね」
そう言って、兄はスタスタと前に歩いて行った。アクセルも急いでその後に続いた。
そうして数十分無言で歩き続け、そろそろ疲れた……と思った頃に、ようやく光が見えてきた。
――出口だ……!
一気に元気が出てきて、アクセルは駆け足で出口に向かった。
急に明るいところに出たせいか、一瞬目が眩んで前が見えなかった。
「はぁ……終わった……」
大きく深呼吸し、持ってきたハチミツ入りレモン水でカラカラの喉を潤す。途中、心が折れそうになったけれど何とか無事に踏破できてよかった。
さて、兄はどこにいるだろう。
「遅かったね。なかなか出てこないから逆走して迎えに行こうかと思ったよ」
「あ、兄上……」
近くの切り株に兄が座っていて、ホッと胸を撫で下ろした。兄のことだから大丈夫だと思っていたが、やはり実際に顔を見ると安心する。
兄はこちらに近寄ってくると、少し訝しげにこんなことを言い出した。
「おや、顔が随分汚れているね? とりあえずこれで拭きなさい」
「ああ、ありがとう……」
「それにしても、何でそんなに汚れてるの? 何か汚れるようなことした? 服も泥だらけだし」
「え? ……うわっ、ホントだ……」
見下ろしてみて気付いた。
自分の姿は泥遊びをした子供のように、衣装のあちこちに汚れがこびりついていた。洗えばとれると思うが、まさかこんなに汚れているとは。初めて踏破した時もここまで汚れなかったと思うのだが……。
「おかしいな、普通に歩いてきただけなのに」
「そうだねぇ……。お互い黙々と歩いてきただけなのに、ここまで汚れに差が出るのは不思議だね」
「……え?」
「ま、洞窟内は不思議なことが起きるから、あまり深い事考えてもしょうがないよ。さ、早いところ帰ろう。私はお腹が空きました」
「う、うん……そうだな」
腑に落ちない気持ちを抱えつつ、アクセルは兄と一緒に山を下りた。
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