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第1520話

「……いや、お前を慰めたのが誰なのかはこの際、横に置いておく。それより私は、お前が泣いていたことに気付かなかったんだ。幻聴は聞こえなかったけど、お前の泣き声も聞こえなかったんだ。そんなふざけたことがあるか?」 「あっ、いや……兄上が悪いわけじゃないんだ。ただ、お互いの発言に矛盾があるから、どういうことだろうと思って……」 「それはわからない……。でも、お前の声に気付かないとかお兄ちゃん失格じゃない……? 幻聴に惑わされなくても、お前の声が聞こえなかったら意味がない……。大事な時に手を差し伸べられないなんて、私の存在意義がないじゃ……」 「そんなことない!」  アクセルは力強く言い切った。何か言われる前に、畳みかけるように続ける。 「あの洞窟では何が起きるかわからないんだ。もしかしたら音が掻き消されていたのかもしれないし、何も聞こえないくらい俺たちの距離が離れていたのかもしれない。俺の声が聞こえなかったからって、兄上に落ち度はないよ」 「……ありがとう。でもやっぱり、お前の声に気付けなかったのはショックでね」 「だとしても、『私の存在意義がない』なんて言わないでくれよ……。俺は兄上がいないと何もできないんだ。それどころか、変な行動をとって自滅してしまうこともある。この間だって、兄上を捜しにスレイプニルの山に入ろうとしただろ? ああいうことがしょっちゅう起こるんだよ」 「…………」 「あなたにとってはショックな事だったのかもしれない。でも、それだけで自分の存在を否定するようなことは言わないで欲しい……。あなたは俺より遥かに強いけど、何でもかんでも感知できるエスパーじゃないんだ……。時には気付かないことだってある……。それに、兄上にそういうこと言われるのは、俺の不甲斐なさを非難されるよりずっと悲しくて……」  また自然に泣けてきて、アクセルは汚れた手で涙を拭った。

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