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第1550話*
そんな兄が、血まみれになって目の前に運ばれてきた。普段の兄とあまりにかけ離れていて、一瞬誰だかわからなかったくらいだ。
一応すぐに兄だと認識できたものの、憧れの兄がそんな姿になっているなんて信じたくなかった。最強の兄が誰かに斬られたことも認めたくなかったし、あと数分で息を引き取るであろうことも受け入れられなかった。
その感情の処理が追い付かず、未成熟だった脳がエラーを起こしてしまったのだろう。
固まっているアクセルを、兄が労わるように撫でてきた。
「……私はただただお前のことが気掛かりで、最後に一目お前を見ようと運んでもらったんだ。でもお前にとっては、記憶を失くすくらいのショックだったんだね。そこまで考えてなかったよ……」
「兄上……」
「ごめんね……こんなことなら、戦場で静かに死んでおけばよかった」
「い、いや、そんな……俺はあれでよかったと思ってるよ。兄上の遺言がなかったら、俺はヴァルハラに来てないし……」
「それでも、大事な弟にそこまでのショックを与えちゃったと思うとね……。兄として悔やみきれないというか、あれでよかったのかと後悔しちゃうんだよ」
「もう……いいじゃないか、生前のことは」
兄を黙らせるように、自分から唇にキスした。
そしてあえて微笑みながら、明るい口調で言う。
「俺はヴァルハラに来られて本当に幸せなんだ。兄上と同じ年齢になれたし、兄上とずーっと一緒にいられるし、死んでも復活できる。こんな素晴らしい環境はないだろ? 生前の記憶はなくても、結果的にヴァルハラに招かれたんだからいいんだよ」
「まあ、そうだね……。ヴァルハラでお前と再会した時、その成長っぷりに本当に驚かされたよ。私が覚えてたのは十五歳のお前だから……『ああ、すごく大きくなってる』って感動した。私との約束を守ってちゃんとヴァルハラに来てくれたしね……もうその場で泣きそうになったよ」
「……その割には、最初は他人のフリしてたけどな?」
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