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第1569話
明日には治ってしまうならなおのこと、これを体験できるのは今しかない。
それはわかっているのだが……。
「でもなんか、都合よく扱われてるみたいで嫌だ!」
アクセルはバタバタと脚をばたつかせた。
相変わらずほとんど抵抗にならなかったが、このまま抱かれるのは何だか納得いかなかった。行為そのものはいいとして、気持ちがそちらに向かない。
「そりゃあ生前みたいに交われたら新鮮だろうけど! これじゃ全部兄上の思い通りじゃないか! 俺に栄養ドリンク飲ませたのも、わざと若返らせてこういうことしたかったからじゃないのか!? 俺も今日行きたいところあったのに、兄上のせいで留守番する羽目になっちゃったんだよ! しかもあんな貞操帯まで着けさせられて! そこまでする必要なかったのに!」
「アクセル……」
「もう兄上に好き放題やられるのは嫌だ! 俺は兄上の欲望の捌け口じゃない! いつも適当な言い訳ばかりされるけど、もうごまかされないからな!」
ぐいぐい、と兄の肩を押し返したのだが、びくともせずに逆に片手で両腕をまとめて押さえつけられてしまう。
それで余計に怒りが湧いてきて、アクセルは闇雲にもがいた。
「離せよ! 兄上なんて大嫌いだ! 自分勝手だし、変態だし! 俺を弄ぶことしか考えてないくせに! 兄上なんて……兄上なんて……!」
途端、口元を手でガッと押さえられ、喋ることもできなくなった。
上から真顔で見下ろされ、違う意味でドクンと心臓が跳ね上がる。
「ねえ、それ本気で言ってるわけじゃないよね?」
「っ……」
「年頃ならではの反抗期だよね? 若返ったせいで思春期っぽい現象が起きてるだけだよね? 本当に『大嫌い』なんて思ってるわけじゃないよね?」
「……!」
「ただの反抗期なら……まあ、いいよ。お前も反抗する前に私が死んじゃったから、この機に反抗期を経験するのもアリかなと思ってる。でも、本気で言ってるならお前との生活も考え直さないといけない。お互い別々に住むとか、一度距離をとってみるとか、そういう解決策も用意しないと仲が悪化する一方だ」
「っ……!?」
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