1595 / 2186
第1595話
「ただいま……」
「おや、おかえり。武器の強化は……って、また何もしてこなかったの?」
「う、うん……ちょっと悩ましいことがあってな……」
「悩ましいことって何? 素材集めが大変とか?」
「いや、素材はもうあるんだ……。ただ、それはちょっと使いたくないというか」
「? 何言ってるのお前?」
兄が怪訝な顔をしたので、アクセルは胸元のペンダントを見せつけた。
「これ、兄上がくれたお守りなんだが。これが『属性抵抗付与』に必要な素材らしいんだ」
「ああ、確か『女神の涙』とかいう石だっけ? あまり詳しくないけど、貴重なものらしいね?」
「貴重どころか、鍛冶屋のエルフもほとんど見たことがない代物だそうだ。そう簡単には手に入らないみたいだぞ」
「ふーん? でも、そんな貴重なものが既に手元にあるなら悩む必要ないじゃない。さっさと強化してもらっちゃえば?」
あまりにもあっさり許可されたので、ちょっと面食らってしまった。
――いやいや、この石はあなたが「お守りに」ってくれたものなんだが……。
そう簡単に強化用の素材にできるわけないじゃないか。お守りの効果があったかは知らないけど、アクセルにとっては常に肌身離さず身に着けている大事なものなんだ。
それを武器強化に使ってしまうのは、さすがに抵抗が大きい。
「私のことなら本当に気にしないで。お前が強くなる方向に使ってもらった方が、私は嬉しいし」
と、兄がひらひら手を振る。
「次の相手はチェイニーくんだしね。彼のことだから、どんな風に戦ってくるかわからない。魔法や幻術を使ってくる可能性もある。それに対抗するためにも、属性抵抗はつけておいた方がいいよ。今からでも遅くないから、もう一度お願いしに行ったら?」
「…………」
「というか、何回も往復して頼みづらいっていうなら、お兄ちゃんが代わりに行ってこようか? いつもの鍛冶屋に行って武器と素材置いてくるだけだし」
そう言われたものの、どうしてもその気になれなかった。
ともだちにシェアしよう!