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第1603話
あ、いや待てよ? 思い返せば、事あるごとに「好き」って言われていた気もする……。
でもあれは「友達として好き」って意味じゃなかったのか? デートにしても「一緒にどこかに遊びに行こう」って意味だと思っていたのだが……そうじゃなかったのか?
もし恋人みたいな意味で「好き」だと言ってくれていたのだとしたら、俺はずっとそれに気付かずスルーし続けていたということに……。
「っ……!」
背中にぐさりと矢が突き刺さり、一瞬息が詰まった。
痛みはないものの肺に穴が開いてしまったらしく、一気に呼吸が苦しくなる。酸素を取り込んでいる側から空気が漏れ出ている感じがして、陸で溺れているような錯覚に陥った。
いくら狂戦士モードでも、これでは長くは保たない。早々に決着をつけないと敗北してしまう。
――チェイニー……本気で俺を殺そうとしてるな……。
勝ってデートしたいのもあるだろうが、今まで全く気持ちに気付かなかったアクセルへの憂さ晴らしというのもあるかもしれない。
幻覚や幻聴を使ってアクセルを精神的に追い詰め、そこからじわじわ嬲るように攻撃してくるのは、その恨みの表れだろう。
でも……考えてみれば、それも当然かもしれない。
今までさんざん「好きだ」と言ってきたのに、相手は全く気付いてくれないどころか違う意味に解釈した挙句、最も身近な身内とイチャついている。事あるごとに仲の良さを見せつけられてしまうし、そもそも自分が入り込める余地がない。
だからといって抱え込んだ気持ちを発散させられる場所もなく、ただ指を咥えて見ているだけになってしまう。
ならばせめて、この戦いで自分の気持ちを全部アクセルにぶつけてやろう……。
「……ごめんな、チェイニー。きみの気持ち、全然気づいてやれなくて」
アクセルは小さく呟いた。だんだん呼吸ができなくなってきて、声も途切れ途切れになってくる。
後ろからヒュッと風を切る音がして、左の小太刀でそれを弾いた。
そして矢が飛んできた方向に一気に跳躍すると、そこにいた人物に武器を振り下ろした。
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