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第1605話(アクセル~フレイン視点)
「は、は……もう、やっぱり敵わない、なぁ……」
そんなチェイニーの声が聞こえたような気がした。
チェイニーは全身をバラバラにされ、スタジアムの地面に転がった。それと同時に幻術も完全に解けた。
スタジアムの四隅に突き刺さった矢は、砂のようにボロボロ崩れて風に流れていった。
「勝者、アクセル! 遺体回収班は遺体を回収してください」
天からヴァルキリーの声が聞こえてくる。
だけど目の前の状況を観察する余裕は、アクセルにはもうなかった。
――いや……俺の方こそ、全然敵わないよ……。
もう意識が保てない。息ができないし、声も出せない。
もし属性抵抗付与がなかったら、幻術に完全に飲み込まれてそのまま嬲り殺しにされていた。反撃する糸口すら見えず、幻聴にも惑わされたままトドメを刺されていた。
それに多分、チェイニーは自身に仕込んだ暗器の半分もまだ見せていないと思う。
実力を一〇〇パーセント出されていたら、おそらく自分は負けていただろう。
――どんなにランクが上がっても、チェイニーにはこれからも敵わないんだろう、な……。
ついに力が抜け、するりと手から小太刀がすべり落ちた。
自分が倒れたのか立った状態なのかもわからないまま、アクセルは意識を失った。
***
――よかった……何とか勝てたね。
フレインはボックス席から拍手を送った。
弟が幻術にかかっているのはすぐにわかった。どう見てもおかしな動きをしていたし、背後のチェイニーに気付かず走り回っていたから、きっと彼の術中に嵌まってしまったのだと察せられた。
こちらとしてはヒヤヒヤしっぱなしで、歓声に混じって応援の声も送ったけれど、それも聞こえていないようだったから本当に焦った。
早く幻術を打ち破って。幻覚や幻聴に惑わされないで。相手の位置さえわかれば、絶対に勝てるから……。
そう念じながら死合いを見守っていた。
途中、背中に矢を受けてしまった時はもうダメかと思ったけれど、どうにか自力で幻術を打ち破ってくれたからホッとした。
最後は半ばヤケクソみたいになっていたが、偶然だろうがまぐれだろうが勝ちは勝ちである。そこに関しては、「勝った者が正義」だ。
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