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第1613話

「これも何度か言ってるけど、お前が生まれる前の私は本当にひどかったんだ。生活がひどいとかそういうレベルじゃなくて、人間としてひどかったんだよ。その日を生きるためなら、盗みも脅しも殺しも平気でやってた。さすがにもう時効にしたいけど、今振り返っても黒歴史以上にヤバいなと思ってる」 「それは……子供が一人で生きていくためだから仕方がなかったんじゃないか? 親に面倒を見てもらえたわけじゃないんだし……。そりゃあ盗みや殺しがいいこととは言わないが、そんなの誰も兄上を責められないよ」  そうフォローしたら、兄は小さく苦笑いした。 「……ありがと。でもとにかく、傍目からすればかなりの悪行を繰り返していたんだ。大人たちにしょっぴかれたことも何度もあったよ。……だけど、お前がうちに来てから我に返ったんだ、『このままじゃダメだ』って。『もっとお兄ちゃんらしくしなくちゃ』、『この子が恥ずかしくないようなお兄ちゃんにならなきゃ』ってね」 「そうなのか……」 「うん。お前だって、盗みや殺しをしまくっている人がお兄ちゃんなんて嫌じゃない? 私だったら嫌だね。そんな人が身内にいたら、早いうちから縁を切ってるよ」  縁を切るかどうかはわからないが、内心穏やかでないことは確かだろう。「もうやめてくれ」と兄を止めていたに違いない。 「私が私でいられるのは、お前がすぐ側で私を見張ってくれているからなんだよ。お前が私を碇のように繋ぎ止めてくれるから、『兄』として恥ずかしくない振る舞いをしようと思える。そうじゃなかったら私は、とっくに獣になってただろうね」 「いや、そんな……さすがにそこまででは……」  そう言ったのだが、兄はゆるゆると首を横に振った。 「……本当はね、私はそんなにしっかりしてないんだ。日常生活はだらしないし、気に入らないことがあるとすぐ相手を斬りたくなってしまう。寂しいのも我慢できないし、真面目に努力するのも好きじゃない。お前の考える『憧れの兄』からは程遠いんだ」

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