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第1634話
「いやでも、代わりの施設とまではいかなくても、グロアと同じようなことができる神くらいいるんじゃないか? 神々の数だって少なくはないんだし」
「だといいけど」
「何なら、バルドル様に聞いてみようか? バルドル様なら顔も広いし、そういう事情にも詳しいと思うんだ」
「ああ……それは自分でやるからいいよ。お前は次の死合いに専念しなさい」
「え……あ、うん……」
「次勝ったらいよいよ準決勝だね。ああ、楽しみだ」
「あ、ああ……頑張るよ……」
勝って兄の期待に応えたいと思う一方、アクセルは少しだけ複雑な気分を味わった。
――兄上が困っている時くらい、力になりたいんだけどな……。
とはいえ、自分がここで無理に「俺に任せてくれ」なんて言ったところで、兄は「私のことは気にしないで」と言い張るに決まっている。
兄としては、弟が余計なことに惑わされず死合いに集中してくれた方が嬉しいのだろう。
その気持ちもわかるから、こちらもあまり余計なことは言えない。
「……なら、どうすることになったかくらいは教えてくれよ? 検査するにしろ治療するにしろ、心配で死合いに集中できないからな」
「はいはい、わかってるよ。まあでも、そんな大事にはならないでしょ。心配無用だよ」
兄はそう笑ってくれたが、薄っすらした不安は消えなかった。
ずっと悩み続けていても仕方ないので、アクセルは朝食後に庭で鍛錬を行った。
兄はどこかへ出掛けてしまったようで、家にはいなかった。バルドル様のところに行ったのかなと思った。
昼の時間になっても帰って来なかったので、仕方なく自分とピピの分の昼食を作って二人で食べた。
午後も同じように素振りや筋トレ、走り込みを行ったが、夕方近くになっても兄は帰って来なかった。
――兄上……どこまで出掛けてるんだ……?
バルドルの屋敷で話し込んでいるんだろうか。それほど深刻な状態だったんだろうか。
もし兄に何かあったらどうしよう……。
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