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第1638話
とりあえず鹿の塊肉や猪の干し肉を切り刻み、ステーキやシチューにする。その後野菜もたくさん切って、ピピのスープや自分のサラダを作った。
「…………」
玉葱を切っている最中、だんだん涙が滲んできてアクセルは目元を拭った。それでも涙が止まらなくて、ボロボロ泣きながら野菜を切り刻む。
おかしい……なんで今日に限ってこんなに涙が出るんだ……。
「ちょ……お前、何をそんな号泣してるの? 大丈夫?」
様子を見に来た兄が、タオルを持ってすっ飛んできた。こちらの涙を拭いてくれて、優しく話を聞いてくれる。
「どうしたんだい? 普段は玉葱切ったくらいでこんなに泣かないのに」
「ああうん、そうなんだよな……。でも今日の玉葱は何故か強烈で……」
「…………」
「はは、おかしいよな。なんで今日はこんなに……意味がわからない……」
「アクセル……」
すると何かを察したのか、兄は慰めるように言った。
「……やっぱり、獣化のことがトラウマになってるの?」
「え……」
「いや、そうなんじゃないかと思ってたけどね。自分で言うのも何だけど、アレはなかなか強烈な出来事だったし。でも今回は心配しなくても大丈夫だよ。時々記憶違いを起こす以外、おかしなところは特にないんだ。あの時みたいに、とんでもないことにはならないはずさ。すぐに絶好調になって戻ってこられるよ」
「ああ……そうだよな。そこは心配してない……いや、ちょっとはしてるけど。多分そういうことじゃないんだ……」
兄からタオルを受け取り、自分で目を拭く。
そして迷いながらも、アクセルは自分の気持ちを吐き出した。
「……ごめん、俺もよくわからない。ただ、無心で食材を切り刻んでいたら『俺は一体何をしてるんだろう』って思えてきて……。兄上が辛い時は俺が力にならなきゃダメなのに、俺ができることと言ったら夕食作ったり自分の死合いに勝つことしかなくて……。いつも自分のことばかりで、肝心な時に全然役に立ってないじゃないかって……」
「そっか……」
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