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第1642話
「……ホームシック?」
「いやほら、オレもヴァルハラに来てそこそこの年月経つだろ? そうなると時々おふくろや兄弟のことが懐かしくなるんだよ。そういう時は、無性に故郷の味が食べたくなるんだよな」
「そうなのか……。俺にはよくわからないが……」
故郷がどうなっているのか考えたことは少しあるが、母親などには全く思い入れがないので懐かしく思うことがまずない。
するとアロイスは腰に手を当てて言った。
「そりゃあアクセルは、ヴァルハラに兄貴がいるもんな。懐かしむ必要もないだろ。でも普通の戦士は故郷に帰れないし、家族だって一人もいないんだぜ?」
「……!」
「オレの弟もヴァルハラ目指して頑張ってるだろうけど……まあそう簡単には来られないだろうしな。そういう意味では、兄弟揃ってるのは羨ましいぜー」
「そうか……」
言われて、アクセルは視線を落とした。
――そう考えると、うちはかなり幸運な家族なのかもしれない……。
ヴァルハラに招かれたはいいものの、大抵は家族と死に別れたまま、故郷に帰ることもできずに暮らしている。
それを思えば、兄と一週間離れるくらいどうってことないではないか。待てば必ず帰ってくるし、今生の別れでもない。料理をしながらメソメソ泣いていた自分が恥ずかしくなってきた。
アクセルは顔を上げ、アロイスに向かって微笑んだ。
「わかったよ、今日の昼のついでに一緒に作っておく。夕方にでもまた取りに来てくれ」
「おっ、サンキュー! さすがアクセル、話がわかるな」
「……でも、今度は死合い直前に言うのはやめてくれよ? 今はまだ余裕があるけど、死合いの前日なんかは余計なことを考えたくないからな」
「あー、そういや次の死合い、相手はアクセルなんだよな! また戦えるのを楽しみにしてるぜ!」
「……そうだな。いい死合いにしよう」
後は二言、三言会話して、アロイスは帰って行った。
アクセルは空の鍋をベランダに置いたまま、昼まで鍛錬を続けた。
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