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第1646話

「っ……!」  力ずくで小太刀を弾かれ、横から大剣を薙ぎ払われる。  サッと地面を蹴って距離を取ったが、腹部スレスレをビュン、と勢いよく風が切っていった。風圧で服の表面が少し擦り切れた。  ――アロイス、以前より素振り速度が上がってるな……!  大剣は一撃が重い分、振りも大きく隙が生まれやすい。  そこが弱点でもあるのだが、アロイスはそれを地道な鍛錬で上手くカバーしてきたみたいだ。  思えば、家を訪ねた時はいつも太い丸太を抱えて素振りをしていたし、潰されそうになりながらも一生懸命スクワットをするなどして筋トレに励んでいた。  そういう筋力強化によって、重い武器や鎧に負けない身体作りに努めてきたのだろう。その努力は、純粋に称賛に値する。  ――だけど俺だって、何もせずにいたわけじゃない……!  闘争心をくすぐられ、アクセルはすぐさま距離を詰めてアロイスの懐に入った。  そして鎧のつなぎ目――肩部分の関節を狙って素早く突きを繰り出した。  アクセルとて、地道な鍛錬を続けてきたのは同じだ。弱点である太刀筋も必死に矯正してきたし、何なら「勝ちたい」という気持ちは誰にも負けないつもりだ。  ここはまだ道半ば。兄と直接対決するためにも、絶対負けられない……! 「うおっ……!」  素早く繰り出した突きは、正確にアロイスの関節を貫いた。確実な手応えを感じ、アロイスの肩が外れる音がした。  細い隙間を正しく狙えるようになったのも、地道な素振り&太刀筋矯正のおかげであろう。 「……この程度でッ!」  だがアロイスは全く怯むことなく、もう片方の手を振り上げてこちらを殴りつけてきた。  こめかみを狙った殴打を察し、咄嗟に小太刀から手を離してアロイスを蹴り飛ばす。そして急いで距離をとった。  だが追撃するかのようにアロイスが大剣を振り払ってきて、着地した時に太もも部分がスパッと切れる。焼け付くような痛みと共に、プシュッと勢いよく鮮血が舞い散った。  大剣が当たった感覚はないから、素振りの風で切られたに違いない。

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