1650 / 2296

第1650話※

「くっ……!」  急いで鞘を引っこ抜き、切断された左脚に紐で結びつけた。義足にはならないが、ないよりマシだ。 「ああ、くっそ!」  同時にアロイスも声を上げた。アロイスの首元や肩口から、ボタボタ血が流れて鎧を赤黒く染めていった。お互いもうボロボロだ。  それでも、不思議と恐怖は感じない。  四肢も欠損しているし、流血しまくりで全身血塗れだけど、それでも楽しくてたまらない。全力が出せる相手と対峙できて快感ですらあった。歓声も耳に入らず、目の前の相手だけに集中できて、他のことは考えられなくなる。  一種のゾーンに入り込むような感覚は、死合いでないと味わえない。本当に最高だ。 「へへっ……ぞくぞくするな。やっぱ死合いって最高に楽しいわ」 「ああ。本気で戦えると、特にな」  死の直前まで追い込まれているのに、恐怖より快感が勝る。  自分でも大概だなと思う一方で、戦士(エインヘリヤル)の本能――死を恐れず、命懸けの死合いを愉しめる気持ち――が自分にも備わっていると解釈すれば、それはそれで誇らしく思う。  ――でも、もう長くは保たないな……。  お互い出血がひどい。痛みはなくても、だんだん全身の力が抜けていくのがわかる。  アクセルは右足に体重をかけつつ、両手の小太刀を構え直した。  アロイスも片手で大剣を抱え上げ、血を吐きながら言った。 「次で決めようぜ、アクセル!」 「ああ、わかった!」  ほぼ同時に、お互い間合いに踏み込む。  先にアロイスが大剣を振り下ろしてきて、それを躱しながらアクセルも小太刀を振り上げた。  ――兄上、力を貸してくれ……!  心の中で兄に呼びかけつつ、最後の雄叫びを上げる。 「タアアァァッ!」 「ゥオオォォッ!」  お互いの武器がぶつかり合う。武器だけではなく、狂戦士の闘気も勢いよく衝突した。  二人がぶつかった場所から衝撃が生まれ、ズガガ……と地面まで全方向に崩れていく。

ともだちにシェアしよう!