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第1663話

「…………」  だがその時、シグルーンが微笑みながら人差し指を唇に当てた。子供によくやる「静かに」のジェスチャーだ。 「少し静かにしていてくださいね。今はあなた達の意見は求めておりません」 「っ……」 「私が何か尋ねた時に、事実を答えてください」  途端、受付嬢たちが緊張した面持ちで口を閉ざした。  先程までうるさいくらいに騒いでいたのに、たったそれだけのことで静かになるのは滑稽ですらあった。  ――それだけこの人が強いってことなのか……。  そんじょそこらのヴァルキリーとはまるでオーラが違う。序列も高そうだし、当たり前に仕事もできるのだろう。戦士で例えるなら、トップ一〇位以内に入っている強者というところか。  受付嬢たちがヘコヘコするのもわかる気がする。 「それで……話をまとめますと、『死合いに引き分けたのに両者失格になっていた。引き分けの扱いはルールに明記されていなかったので、これは不当な扱いである』……と。あなた達はそう主張しているわけですね?」 「は、はい……」 「そのような理由から、再審査を求めている……と」 「はい……そんなところです」 「なるほど」  くすっと笑い、シグルーンは顎に手を当てた。 「昨日の死合いのジャッジをしていたの、誰だったかしら。きっといろいろ面倒になって『どっちも失格にしちゃえ』と思ったんでしょうね。あとでお説教して差し上げなくては」 「は、はあ……」 「では、引き分け時のルールも含め、我々の方で検討させていただきます。結果は後日通達させますね。ご苦労様でした」  簡潔に話をまとめると、シグルーンは受付を離れてスタスタと館に入っていった。急にあっさり話が終わってしまったので、拍子抜けしてしまった。  今まで全く話が通じなかったのに、何だろうこの展開。やはり話を通すには受付じゃなくて、上位のヴァルキリーに直接訴えなければいけないということか。  でも今回はたまたまシグルーンに遭遇できたけど、受付で追い返された場合は泣き寝入りするしかなくなるのでは……?

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