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第1689話
想像しただけでぞっとする。兄がいろんな男と一ヵ月も交わっていたなんて、考えたくもなかった。
そりゃあ昔の兄は生活が乱れていたって聞いているけど、娼館にいたという話は聞いていない。
というか、賭けに負けたって一体何をしたんだ……? ナダルと何があったんだ……?
堪えきれず、アクセルはこれだけ尋ねた。
「兄上、それは……兄上の意志じゃなかったんだよな? 賭けに負けたから仕方なく働いていただけで、自ら選択したわけじゃないんだよな?」
「そりゃあね。さすがの私も娼館には興味ないかな」
「だ、だよな……よかった」
「ただ……お前、ナダルと戦うなら彼の戦法には気を付けなさいね。自分はそんなつもりなくても、いつの間にかギャンブルに巻き込まれてとんでもない負債を負わされる可能性もあるから」
「ギャンブル……? どういうことだ……?」
「ナダルが関わっている死合いは、賭けの対象になっていることが多いんだよ」
と、兄が説明してくれる。
「例えば『自分が勝ったら賞金上乗せ』とか、『負けた相手は娼館に送り込む』とか。そういう条件が知らない間に付け加えられている場合があるんだ。特にランクが低かったり見栄えがよかったりする戦士は要注意だね」
そういえば、チェイニーが「死合いはギャンブルの対象」と言っていた。
彼はお金の話しかしていなかったけれど、「相手の行動を縛る」みたいな悪質なギャンブルが行われている場合もあるのか。初めて知った。
「でもそんな……そんなのズルくないか? こっちは全然知らないのに勝手に賭けの対象にされて……。挙句、『負けたら娼館行き』ってどういうことだよ? 俺だったら『そんなの知らない』って突っぱねるぞ」
「そう思うでしょ? でも死合い後、棺で復活した直後に複数の男たちに囲まれて、『お前はギャンブルに負けたから娼館行きな』って詰め寄られたら、なかなか抵抗できないよ? ランクが高ければ問答無用で全員斬り伏せられるけど、ランクが低いと多勢に無勢でどうしようもない。そこまで考えて、ナダルは賭けの対象を下位ランカーにしてるんだ。私もランクが低い時はよくやられたものだね」
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