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第1691話
「ふむ、弟君もかなりたくましくなったようだ。足腰がしっかりしてきている」
「あ……ありがとうございます」
「やはり毎日の地道な鍛錬がものを言うのだな。ヴァルハラに来てもそれは変わらん。最終的に、どれだけ鍛錬をしたかで強さが決まるのだろう」
「はい、そうですね」
ケイジの言う通りである。
ヴァルハラに招かれて終わりではない。招かれたからこそ、より一層鍛錬に励む必要がある。ヴァルハラにいる人は皆粒揃いの戦士ばかりだから、ちょっとやそっとの鍛錬ではランクが上がらないのだ。
それを踏まえると、兄がランキング三位の強者になれたのは、相当の努力をしてきたという証拠である。
今でこそ毎日ゴロゴロしているようにしか見えないが、アクセルがヴァルハラに来る前はかなり苦労していたみたいだし……その現状を打破するために、死に物狂いでランクを上げたに違いない。
――そりゃあ、勝手に賭けの対象にされて一方的に娼館に送り込まれたら、「ランクを上げるしかない」って思うよな……。
そんなことを考えたら、また腹立たしくなってきた。
せっかく冷水に打たれて頭が冷えてきたのに、どうしようもなく怒りが再燃してきてしまう。
兄は綺麗で色気もあるし男にもモテるんだろうけど、だからといって娼館に送り込むのは言語道断だ。どれだけの男に虐められたのか、想像するだけで腸が煮えくり返る。
ナダルめ……兄をそんな目に遭わせたことを後悔するくらい、メタメタのギタギタにしてやるから覚悟しろ……!
「何やら燃えているようだな、弟君」
そうケイジに指摘され、アクセルはハッと我に返った。
「何に怒っているか知らぬが、怒りは自分の目を曇らせる。ゆめゆめ忘れるなよ」
「あ……は、はい……」
「では」
短いアドバイスだけ残し、ケイジは駆け足で山奥の修行場へ向かって行った。
残されたアクセルは冷水に打たれたまま、「はぁ……」と長い息を吐いた。
――さすがはケイジ様だな……。修行僧みたいな人は言うことが違う……。
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