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第1692話

 腹立たしいのは変わらないが、怒りに囚われて冷静さを欠いてはいけない。  相手に勝利したいのなら、常にクリアな思考で最善の一手を取らなくては。 「……うおっ!」  そんなことを考えていたら、膝が震えてきてついバランスを崩してしまった。丸太と水の重みに身体が耐えられなくなり、バシャーンと激しく水の中に転倒する。 「ぶはっ……! ああ、くそ……」  水から上がった途端、刺さるような冷気に襲われ身体が麻痺しそうになった。冷たい水を浴びていた上、更に気化熱で体温を奪われ、今すぐ帰って熱いシャワーを浴びたくなってくる。  ――うう……これ以上は無理だ……。風邪ひきそう……。  ガタガタ震えながら、アクセルは急いで修行場を離れた。  びしょ濡れになりながらも駆け足で家まで戻り、玄関で服を脱ぎ捨ててそのまま風呂場に直行する。  ノズルと捻って熱いお湯を出し、頭からしばらく浴び続けていたら、ようやく身体の震えが収まって来た。  ――はぁ……俺もまだまだだな。  ホッと一息つき、全身を綺麗に洗ったところで浴室を出る。  タオルで水分を拭き取り、室内着に着替えたが、なんだかまだ寒気が残っているような気がした。ちゃんと身体は拭いたのに何故だろう。滝行で身体を冷やし過ぎたかな?  まあいいや……と思い、キッチンに入って水分補給をする。  このハチミツ入りレモン水もまた作り置きしておかないとなぁ……と考えていると、兄が様子を窺いにきた。 「おや、おかえり。いきなりバタバタやってるから何事かと思ったよ」 「いや……ちょっと滝行の最中に転んでしまって。今シャワーを浴びたところだ」 「はあ、道理でお前の服がびしょびしょになってたはずだ。というか、どうせ入るならお風呂沸かしちゃえばよかったのに。中途半端じゃ風邪ひくよ?」 「大丈夫だよ、十分温まったし」  そう言ってアクセルは、新しいボトルにミネラルウォーターを入れ、その中にスライスしたレモンを放り込んだ。そして少しハチミツを混ぜ、涼しい場所に置いておく。

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