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第1693話

「そんなことより、今日の夕食は何にする? 何かリクエストはあるか?」 「いや、何でも大丈夫だよ。お前の判断に任せる」  そう言われたので、アクセルは早速食料庫を覗き込み、何が作れるか検討した。残っているのは干し肉が少し、干からびたジャガイモとニンジン、香辛料くらいだ。  最近トーナメント関連の出来事で忙しく、まとまった買い出しができていなかったことを思い出す。 「兄上、ちょっと市場で食材買い足してくるよ。これじゃピピのスープも作れない」 「ありゃ、そんなに食料なかった? この間買ってきたばかりなのに」 「……兄上がよく食べるからな。とにかく、行ってくるよ」  アクセルは買い物カゴを掴み、早足で市場に向かった。  時間が遅くなればなるほど、市場の商品は少なくなっていく。今からじゃ十分な食材を確保できないだろうけど、それでも行かないよりマシだ。  そう思って市場を歩き回ったのだが、一生懸命食材を買い集めているところで、何やら身体の違和感を覚えた。  ――おかしいな、さっきからやけに熱いような……?  軽く額の汗を拭う。  あちこち動き回っているから、自然と身体が熱くなってきたのだろうか。普段は買い物くらいでこんなに熱くなることはないんだが……。  ある程度食材は確保できたし、さっさと帰ろう……と市場から離れる。  そこから自宅に向かってしばらく歩いていると、 「……うっ」  突然後頭部を誰かに殴られ、アクセルは前のめりに転倒した。  急いで起き上がろうとしたのに、徐々に目の前が真っ暗になって意識が遠ざかっていく。  ――なんだ……!? 一体誰が……!?  襲われたことに気付き、混濁する意識をどうにか引き戻す。  でも身体に力が入らず、指先も痺れたように動かなかった。  あと少し……あと少しで家に帰れるのに、何で今こんなトラブルに……! 「へへ、不用心だな。武器すら持たずに呑気に買い物とはよ」  誰かの声が遠くに聞こえた。  その後、別の誰かにひょいと身体を持ち上げられ、荷物のように肩に担ぎ上げられてしまう。

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