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第1694話

「さっさとズラかるぞ。娼館でたっぷり可愛がってやろうぜ」 「……!?」  娼館というワードが聞こえてきて、全身が強張った。  こいつら、俺を娼館に連れていくつもりか!? まさかナダルさんに指示されて……?  くそ、体調がおかしい時に後ろから奇襲するなんて卑怯な……。 「うう……」  一生懸命もがいたが、身体に力が入らないので男の腕から抜け出すことができない。  見えている男の背に爪を立て、力なく引っ掻くのがせいぜいだった。  ああくそ……何で俺は肝心な時に何もできないんだ……! いつもの実力が出せれば、こんな奴らにやられたりしないのに……! 「おいこら、暴れるな」 「っ……!」  別の男に再び頭をパカンと殴られ、一気に力が抜けた。  ぐったりと全身を弛緩させ、今度こそ意識を失いそうになる。  ――兄上……!  朦朧とした中でも、頭に浮かんだのは兄の姿だった。  嫌だ嫌だ、娼館なんて行きたくない……! 兄上以外の人には触れられたくない……!  他の男を受け入れるなんて、兄上に対する裏切り行為じゃないか。  俺はそんなことするつもりはないし、これからも兄上一筋でいる。  お願いだから放してくれ……! 兄上、助けて……! 「……何をしているのかな?」  その時、穏やかだが殺気に満ちた声が耳に飛び込んできた。  同時に、その場の空気が一気に凍り付く。  動揺した男が自分を取り落としたため、ドサッと地面に叩きつけられてしまった。それもまた地味なダメージだった。 「ああああいや! 変なことはしてないんです! なんかこいつが具合悪そうだったんで、オレたちが看病してやろうと思っただけです!」 「…………」 「まーでも、フレイン様がいらっしゃったならオレたちはいらないっすねー。そんじゃ、お疲れっしたー」  兄がブチ切れる前に、男たちはドタドタ……とその場から逃げて行った。  アクセルも起き上がろうとしたが、二度も殴られた上に全身を地面に叩きつけられてしまい、自力ではどうにもならなかった。意識を保ち、男たちの会話を聞き取るだけで精一杯だった。

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