1701 / 2296

第1701話

 重い溜息をついたところで、ベランダから聞き覚えのある声が聞こえてきた。 「おーい、アクセルいるかー?」  おや、と思ってベランダの窓を開けると、アロイスが空の大鍋を持ってそこに立っていた。 「よー、アクセル。お前、トーナメントのブロック移動になったんだってな? お互い勝ち上がれてよかったなー!」 「ああ、失格にならなくてよかった。ところで、その大鍋は……?」 「いやー、また豆のスープ食べたくなったから持ってきた。これいっぱいによろしく頼むぜ。あ、お礼の木材はそこに積んであるからな」  うさぎ小屋の横には、まだカットされていない丸太が大量に積み重なっている。  ピピの好きな硬い木材も持ってきてくれたらしく、アクセルが選別する前に大喜びで齧っていた。 「にしても、今日は朝から娼館の方が騒がしかったな。下位ランカーがひっきりなしに遺体運びで往復しててさ。何事かと思っちまったぜ」 「えっ……?」  急にそんなことを言われたので、アクセルはハッと顔を上げた。  アロイスは腰に手を当て、したり顔で言った。 「何だ、知らないのか? 何でも昨日の深夜、娼館に武器持ったヤツが闖入したらしくて、そこにいたヤツは全滅しちまったんだと」 「せ、全滅……!?」 「ああ。娼館って基本的に武器持って入れないだろ? そんなところで刃傷沙汰って、なかなかの事件だなと。まあ刃傷沙汰自体はヴァルハラではよくあることだけどさ」 「…………」 「何を思ってそんなことやったのか知らんけど、相変わらずフレイン様は苛烈なことをするよなぁ」 「っ……!?」  不意に兄の名前が飛び出してきて、一瞬呼吸が止まった。  指先から血の気が引いていき、嫌なめまいで頭がくらくらしてくる。 「みんなビビって口割らないけど、一晩で娼館を全滅させられる上位ランカーで、そんなことしでかすのフレイン様くらいしかいないもんな。アクセルと一緒に暮らしてからはかなり丸くなったみたいだけど、やっぱ本質は変わんねぇってことかー。なんつーか、ちょっと懐かしくなったわ」

ともだちにシェアしよう!