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第1705話
「……つまりお前は、私がやってきたことは全部間違いだったって言いたいの?」
「そこまでは言ってない……。けど、無闇な殺生はやめて欲しいと」
「アクセル」
今度はやや強い口調で遮ってくる。
「お前、やめたらどうなるかわかって言ってる? やられっぱなしのまま何もしないでいたら、ガラの悪い連中はつけあがってくるだけだよ。調子に乗ってもっと強引なことしてくる。だからそうならないように、あらかじめ釘を刺してるんじゃないか。無闇な殺生はやめろとか、そんな綺麗事言ってたら平和に暮らせないんだ」
「なんでだよ……。今のヴァルハラにそこまでたくさんガラの悪い連中はいないだろ。それに、釘を刺すなら襲ってきた実行犯だけで十分じゃないか。関係のない人を巻き込むのはやっぱりよくないと……」
そう言いかけたら、いきなり左頬に衝撃が走った。
「え……は……?」
割と容赦なく平手打ちされて、驚愕のあまり声が出なくなる。今まで兄に殴られたことはほとんどなかったから、余計に愕然としてしまった。
次いで兄はこちらの胸倉をガッと掴み、強い力で壁に押し付けてきた。
「あ、兄上……」
「お前、脳内お花畑も大概にしなさいよ」
静かだが迫力のある声を聞き、一瞬にして血の気が引いた。
「今まで何度もガラの悪い連中に絡まれてきたくせに、まだそんなこと言ってるわけ? いつも最後には『兄上、助けて』って縋りついてくるのに、何をふざけてるの? お前が平和に暮らせているのは、私が手を汚してるからだってわからない?」
「そっ……」
「だいたいお前、本当の意味で襲われたことないでしょう? だからそんな悠長なことを言っていられるんだ。殴られて連れ去られそうになったのだって、厳密には未遂だもんね。本当に恐ろしいのはそこから先だ。実際に娼館に連れ込まれて、大勢の男にマワされて、挙句何ヵ月も監禁されたら、とてもじゃないけど正気なんて保てない。きっとお前は、耐えられなくなって自ら破魂を選んじゃうだろうね」
「そんな……」
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