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第1706話
さすがに破魂はない……と言いたかったが、咄嗟に否定できなかった。正直、兄以外の男に襲われたらしばらく立ち直れなさそうだし、兄にも申し訳なくて一人で引きこもってしまいそうだ。
どう答えていいかわからないでいると、兄は長い息を吐き一緒に言葉も吐き出した。
「……私はね、お前を守るためだったらどんなに汚れてもいいと思っている。逆恨みされたって構わないし、お前から『迷惑だ』って言われても――ショックではあるけど――やめるつもりはない。ヴァルハラの民度は本当に両極端で、いい人はいいけど悪い人はどうしようもないワルだからね。お前を守るには、何かが起こる前に釘を差すしかないんだ。誰が何と言おうと、これだけは絶対に譲れない」
「…………」
「……お前にだけは、綺麗なままでいて欲しいんだ……」
最後はほとんど絞り出すような声になっていた。
兄の切実な訴えを聞いていたら、急に胸が痛くなってきた。叩かれた頬よりも心臓の辺りが痛くてたまらず、アクセルは静かに目を伏せた。
「兄上……あの、俺……」
「……まあ、こういう過保護なところがお前は気に入らないんだろうけどね」
と、兄がやや投げやりな口調で手を離す。
胸倉は解放されたが、依然として胸は苦しいままだった。
「お前が脳内お花畑なのは今に始まったことじゃない。何回襲われても学習しないし、危険なところに自ら飛び込もうとするし、そのくせ自分は大丈夫だって思ってる。自分がいかにモテるかも、未だに気付いてないみたいだしね。そういうところを自覚してないから、私の心配を『迷惑だ』って思っちゃうわけだ。困ったものだよ」
「……すみません……」
「……でも別にいいんだ。もうお前にはそっち方面の危機感は期待していない。自由にやりたいなら好きにすればいい。その代わり、こっちはこっちで勝手にやらせてもらうから悪く思わないでね」
「え……? あ、あの……いや、それは……」
「それじゃ、次の死合い頑張りなさい」
急に突き放すような言い方をされ、今度は違う意味で戸惑った。
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