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第1707話

 話は終わったとばかりに離れていく兄を見て、アクセルは慌てて追い縋った。 「待ってくれ兄上! 違うんだ! 俺はただ、兄上にこれ以上汚れて欲しくなくて……!」 「…………」 「兄上は『どんなに汚れてもいい』って言うけど、俺にとっては全然よくないんだ……! 俺なんかのために兄上がどんどん血に汚れていくのは、見ていて辛いというか、どうしようもなく苦しくて……」 「…………」 「勝手なこと言ってるのはわかってる。脳内お花畑って言われても否定できない。それでも、嫌なものは嫌なんだ……! 兄上が俺に『綺麗なままでいて欲しい』って言うように、俺も兄上には『綺麗なままでいて欲しい』んだよ」 「それは無理かな」  返答してくれたかと思ったら、兄はいともあっさりこちらの意志を否定してきた。 「だって私は、既に汚れきっているもの。お前がヴァルハラに来る前からこんなだから、今更綺麗事なんて言っても遅いよ。『理想のお兄ちゃん』になれないのは心苦しいけど、こればっかりはどうしようもない。理想と現実は違うんだって、諦めてもらうしかない」 「そんな……」 「とにかくお前は、トーナメントを勝ち上がることだけを考えていなさい。次の死合いでナダルに報復するんでしょ? だったら余計なことを考えている暇なんてないはずだ。せっかく失格を取り消してもらえたんだから、最後まで勝ち上がらないと損だよ」  強引に話をまとめ、アクセルから離れて行こうとする兄。  ここまであからさまに突き放されたのは初めてで、アクセルはますます血の気が引いた。このまま距離をとったら兄に見捨てられてしまう気がして、恥も外聞もなく背中から抱きついた。 「ごめん、兄上……俺が悪かった……! 兄上の気持ちも考えず、生意気なこと言ってすみませんでした……!」 「離しなさい」 「嫌だ、離さない! だってこのまま兄上と離れたら、兄上どこか行っちゃうじゃ……」

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