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第1708話

「もう……いい加減にしろって言ってるんだよ!」  空気がビリッと痺れたかと思ったら、腕をガッと掴まれて強引に引き剥がされた。そして近くのソファー付近に叩きつけられ、間髪入れずに上から頭を踏みつけられた。こんなことをされたのも生まれて初めてだった。 「本当にお前はどこまで甘ったれなんだい? そうやって都合が悪くなったら私に縋りついて、全部なかったことにしようと思ってるだろう? 泣いて謝ったら何でも許されると思うなよ」 「っ……」 「……こっちの気も知らないで勝手なことばかり言って。本当に泣きたいのは私の方だよ。私はこんなにお前のこと愛してるのに、お前は何一つ私の気持ちを理解してなかったなんて……いくらなんでも失望した。これなら私の友人の方が私のこと理解してるくらいだ」 「そんな……いっ!」  ぐりぐりと強く頭を踏みつけられ、弁明の言葉すら出せなくなる。  兄はこちらを見下ろして、続けた。 「結局のところお前は、『理想のお兄ちゃん』像を私に押し付けているだけなんだよ。少しでもそれと違ったら『こんなの兄上じゃない』って騒ぎ出す。それで分が悪くなると、縋って謝ってくる。その繰り返し。肝心なところは何にも成長していないし、考え方も変わっていない。だからいつまで経っても隙だらけだし、変な連中に絡まれるのも減らないんだ」 「っ……」 「……なんだかもう疲れたよ。とにかく今は一人にして。こっちに寄って来ないで。これ以上お前と対面していたら、自分が抑えられなくなりそうだから」 「…………」  兄がようやく足を上げた。  だが踏みつけがなくなっても、アクセルは顔を上げることができなかった。  そのまま兄はスタスタと廊下を歩き、バタンとドアを開けてどこかへ出掛けてしまった。 「う……うぅ……」  独り残されたアクセルは、床に蹲ったまま嗚咽を漏らした。  ――兄上……。  後悔で胸が押し潰されそうになる。なんであんなこと言っちゃったんだろう。

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