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第1709話
余計な言及なんてしなければよかった。アロイスから昨夜の話を聞いたとしても、聞かなかったことにしてスルーすればよかった。
兄が自分のために手を汚していることはわかっていたはずなのに、勢いに任せてそれを非難するようなことを……。
――本当にどうしようもないな、俺……。
自己嫌悪にまみれ、立ち上がることすらできなくなる。
偉そうなことを口にしたところで、結局自分は兄に甘えているだけなのだ。
兄なら自分を見捨てない、兄なら何だかんだで許してくれる、兄ならこちらの気持ちを理解して受け止めてくれる――そんな奢りがあったのだろう。
でも……今回ばかりはもうダメかもしれない。
自分は兄の気持ちを踏み躙った。兄の思いやりを突っぱね、それどころか「迷惑だ」などとなじってしまった。これでは兄も怒って当然だ。
というか、追い縋った弟を引き剥がして叩きつけて頭を踏みつけてくるくらいだから、修復不可能なくらい傷つけてしまったんだと思う。
「ごめん、兄上……本当にごめん……」
誰もいないリビングで這いつくばりながら謝罪し続ける。
そのまましばらく蹲っていたら、ベランダからどんどんと窓を叩く音がした。ハッとして顔を上げると、そこには何故かアロイスがいた。しかもいつの間にやら夕方になっている。
「おーい大丈夫か? ずっと倒れてるからどうしたのかと思ったぜ」
「あ……いや、これは……その……」
「てか、もしかしてまだスープできてない? なら明日また改めて取りにくるけど」
「あ……ああ……スープ……ごめん、まだ作ってないんだ……」
言われてようやく思い出した。豆のスープをリクエストされたことなんて、すっかり忘れていた……。
「あ、そう。んじゃ、明日までによろしく頼むぜ」
「あっ……ちょ、ちょっと待ってくれ」
「ん? 何か用か?」
「あ……ええと……」
引き留めたはいいものの、何を話していいかわからず、アクセルは視線を落とした。
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