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第1713話(フレイン~アクセル視点)

「ええ……? 今から戻るのはさすがにちょっと……。一晩くらい泊めてよ」 「馬鹿言うな。そんなことしたら、オレが弟くんに『浮気だ!』って恨まれるじゃねぇか」 「またそんな……。あの子、何度言ったら『浮気じゃない』ってわかるんだろう? 私は昔からの友人に愚痴をこぼしに来ただけなのに、ねぇ?」 「ねぇ? じゃないだろ。いいからさっさと帰れ、酔っ払い」  ジークが面倒臭そうに手を振り払った時、ドアの呼び鈴が鳴る音がした。 「……おや? こんな時間に誰だろうね?」 「誰も何も、噂の弟くん以外にないだろ」 「いやいや、まさか……」  迎えに来てくれるわけないじゃない……と言おうとしたのだが、ジークがドアを開けた途端、本当に弟の姿が見えて思わず固まってしまった。 *** 「ジーク様、すみません……こんな遅くに……」  ドアを開けてくれたジークに、アクセルは深々と頭を下げた。  兄が逃げ込みそうな場所……と考えた時、真っ先にジークの家が思い浮かんだのだ。  見当違いの可能性もあったが、違ったら違ったで「兄が来たら連絡ください」と伝えるつもりだった。  だが見当違いでなかったようで少し安心した。部屋の奥に、兄の姿が見えた。 「いや、来てくれてよかったよ。さっさとあの酔っ払いを持って帰ってくれ」 「酔っ払いって……」  失礼して、ジークの家に上がらせてもらう。  兄はリビングで一人ヤギの蜜酒を煽っていた。何杯飲んだのか知らないが、そろそろボトルがまるまる空になってしまいそうだった。 「……お前、何で来たの?」 「え……」 「わざわざ迎えに来なくてよかったのに」  そんな風に言われ、心臓が抉られるように痛んだ。  ヤギの蜜酒を煽りまくっていても、未だに怒りは収まっていないようだった。 「……ごめん、怒ってるよな。相当酷いこと言ったんだから、当然だ」 「…………」 「でもやっぱり俺、兄上と離れ離れなのは嫌だ。俺のこと許せないならそれでもいいから、とにかく一緒に帰ろう」

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