1714 / 2296

第1714話

 兄のグラスを取り上げ、腕を掴んで立たせる。  そのまま引っ張って帰ろうとしたら、兄が脚元をもつれさせ、こちらに倒れ込んできた。 「あっ……ご、ごめん……! 大丈夫か?」 「……おかしいな、今更ながら酔いが回ってきた。なんかフラフラする」 「ああ、そうか。そういうことなら……」  アクセルは背中を向け、兄をひょいと背負い上げた。以前より軽々持ち上げることができて、自分でも少し驚いた。多分、自分の筋力がついたのだろう。 「すみません、ジーク様。お邪魔しました。ご迷惑をおかけしました」 「ああ、もう喧嘩すんなよ」  何度もジークに礼と謝罪をし、アクセルは今度こそ兄と家に帰った。  道中、兄はほとんど何も言わなかったが、ただ一言呟くようにこう言った。 「……お前、時々すごく強引だよね」 「そう……だな、そうかもしれない」  自分が時々強引なのはよくわかっている。今日だっていても立ってもいられず、結局兄を迎えに行って連れ帰ってしまった。兄からすれば、身勝手極まりない振る舞いだろう。  でも……。 「後悔したくないんだ。特に兄上とのことは……」 「……!」 「すれ違っている間に兄上に何かが起きて、そのまま死に別れちゃったら……喧嘩別れしたまま二度と会えなくなったら……。そう考えたらもう我慢できなくなってきて、絶対に今日のうちに兄上を連れ戻そうと思って……」 「…………」 「……至らないところはたくさんある。俺は本当に甘ったれだから、これからも兄上の気持ちを無下にしたり怒らせたりすることもあるだろう。それでも、兄上のことが好きなのは本当だ。本当に心から尊敬しているし、愛している。……そこだけは、信じていてくれよな」 「…………」  兄は返事の代わりに、長い息を吐いた。ややアルコールの乗った呼気が鼻先を掠めた。 「……ホントに、お前ってやつは」  そう小さく呟いたきり、兄は何も言わなくなった。  アクセルも無言のまま、速足で家に帰り着いた。

ともだちにシェアしよう!