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第1715話

「兄上……?」  先程からやけに静かだなと思い、チラリと肩を覗いてみた。  兄は静かな寝息を立てながら目を閉じていた。あれだけ酒を飲んでいたのだから、当然と言えば当然か。  アクセルはベッドに兄を寝かせ、サイドテーブルに水を置いてからキッチンに向かった。兄が起きてきたらすぐに食事にできるよう、猪のシチューを作っておいた。  ……まあ、朝まで起きて来ない可能性もあるけれど。 「ぴー」  ピピがベランダから「ごはんまだ?」と催促してきたので、アクセルは猪のシチューを皿に盛って出してやった。  隣で食事の様子を見守りつつ、ぽつぽつと話し始める。 「ピピ、何とか兄上に帰ってきてもらえたよ。……まあ強制的に連れ戻したに近いけど。それでも、別れたままにならなくてよかった」 「ぴー」 「それにしても俺、同じようなことばかり繰り返してるよな。兄上を怒らせては後悔して、強引に謝っては連れ戻して……。もう、いつ兄上に愛想を尽かされてもおかしくない気がする」 「ぴ……」  そんなことないよ、とピピが慰めてくれる。  これもまたお決まりの流れだなぁ……と、やや他人事のように思った。兄と喧嘩して落ち込んで、ピピに愚痴って慰めてもらう。いつかピピにも呆れられそうだ。 「……というか、何でこんなことになったんだっけ。滝行してたらちょっと風邪をひいて、そこを男たちに襲撃されて、間一髪で兄上が助けてくれて、それで……」 「ぴ……」 「……そうか。兄上が娼館を全滅させちゃったのは、元はと言えば俺に原因があったんだな。俺がいつまで経っても弱くて危なっかしいままだから、兄上が汚れ役を負わなきゃいけないんだ……」 「ぴー……」 「……でもおかしいな。毎日鍛錬して少しは強くなったはずなのに、何で俺はずっと弱いままなんだろう……。たまには兄上の手を煩わせることなく生活したいのに、何で何も変わらないんだろう……」  そうぼやいたら、ピピがすんすんと鼻面を擦り寄せてきた。  そしてたどたどしい口調で、こんなことを言ってきた。

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