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第1721話
うんうん、と頷いてくれるピピ。
もし死合いで死んで棺に入ることになったら、その間ピピの食事を忘れないよう兄に釘を差しておかなくては。
「じゃあ俺、そろそろ行ってくるからな」
軽い朝ご飯をとった後、アクセルは武器を片手に玄関に向かった。兄は家の片付けをしてからスタジアムに行くつもりらしく、アクセルの食器も代わりに洗っておいてくれた。
「私はロイヤルボックスから死合いガン見してるからね。頑張って」
「ああ、もちろん。絶対勝利してくるよ」
そう約束し、アクセルは一足先にスタジアムに到着した。
戦士控え室に荷物を置き、深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
――なんか、始まる前から手先が震えてるな……。
いつもの武者震いとは少し違う、やや嫌な意味の震え。
兄を傷つけた相手に対する怒り、その相手をやっと成敗してしまえる興奮、どんな風に相手が立ち回ってくるかの不安……等々、様々な要因が震えとなって表れてくる。
ただ、死合い直前になっても「負ける可能性」を一ミリも考えていないのには、少し驚いた。
いつもなら「負けたらどうしよう」とか「まるで勝てる気がしない」とビビリ散らかしているのに、今回に限ってはそういった不安は全くない。ただ「兄の敵を討ちたい」という純粋な気持ちでいっぱいになっていた。
――でも、あまり頭に血が上りすぎるのもよくない……。あくまで冷静に戦わなきゃ……。
そう思い、もう一度深呼吸をする。
控え室で何度か素振りをし、気を紛らわせたところでいよいよ闘技広場に向かった。
ひとつ前の死合いはなかなかに白熱していたようで、遺体回収班やスタジアムの整備班がひっきりなしに会場を出入りしていた。
準備が整い、スタジアムに入場する。反対のゲートからはナダルが出て来ていた。娼館で会った時と同じく、目尻にタトゥー、ドレッドヘアー、腰に剣を下げていた。その剣もストレートな形ではなく、三日月型に反り返った鋭利な形をしている。
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