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第1723話

「……ちょっと何言ってるかわかりませんね。そんなのは俺に勝ってから言ってください」 「ハッ! 一丁前なこと言ってんじゃねぇよ、いつも兄貴に守られている半人前がよ」  半人前、という言葉がアクセルの胸に小さく刺さった。  それに関しては悔しいけど一理ある。半人前のつもりはなかったものの、兄に守られているのは事実だ。 「あいつが娼館全滅させたのだって、どーせお前がお願いしたからだろ? お前の兄貴は弟にゲロ甘だからなぁ?」 「…………」 「そんな半人前が、トーナメントで勝ち上がってるなんてどう見てもおかしいだろ。ここはキッチリ、ヴァルハラの厳しさを教えてやらねぇとなぁ」 「そうですか」  少しイラッとして、アクセルはやや強めに小太刀の柄を掴んだ。  ――ヴァルハラの厳しさなんて、あんたに教えてもらわなくてもわかってるよ……!  どんなに必死に鍛錬しても、常に上には上がいる。未だに兄にも追い付けていないし、ランキング一位のミューに至ってはこれから先もずっと敵わないだろう。  そういった「正当な強さによる厳しさ」なら、アクセルも十分理解している。  ただ、ナダルのいう「厳しさ」とは理不尽な罠に嵌められるとか、蚊帳の外から妨害されるとか、そういうものを指している。  そんなのは厳しさではなく、ただ汚いだけだ。正面から戦って勝てないから、卑怯な手を取らざるを得ないだけだ。  そんなやつは、俺が全部ぶっ飛ばしてやる……! 『死合い開始十秒前……九、八、七……』  ヴァルキリーのカウントダウンが始まる。  観客が静まり、自分自身の緊張も高まってきた。  ――そう言えば兄上は……。  チラリと視線だけでロイヤルボックスを仰ぎ見る。  兄はロイヤルボックスの真ん中で、飲み物片手にこちらを見下ろしていた。ちゃんと観戦に来てくれて少しホッとした。  兄のためにも、絶対にボコボコにしてやらなきゃ……! 『三……二……一……スタート!』

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