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第1745話
「そうかい」
兄がズズッとうどんを啜った。
呆れられてしまったかなと思って兄を見たのだが、兄の表情は特に変わっていなかった。
「まあでも、今から諦める必要はないんじゃない? 玉砕覚悟でぶつかって、いろいろ勉強させてもらえばいいよ。彼の戦い方は独特だから、吸収できるものはあると思う」
「え……あ、うん……そうだな……」
「ま、仮に優勝できなくても『トーナメント準優勝』っていう結果は残るからさ。お前のランクもまた上がるんじゃないかな。そしたら私と普通の死合いでマッチングする可能性も高くなるし。そう悲観することもないね」
そう言って、兄は顔を上げた。こう続けた。
「それとは別件で、近いうちに『透ノ国』に行ってこようと思うんだ」
「え……透ノ国? なんでまた……」
透ノ国とは、ラグナロク終盤に訪れた世界である。アース神族の世界 とも巨人族の世界 とも、もちろん死者の国 とも違う。どこにも属さない切り離された世界である。
かつては「予言の巫女」と呼ばれた女性――一応、アクセル&フレインの母親だが、「母」と思いたくないのであえて「女性」ということにする――がいたけれど、彼女は導きの石板を破壊したことにより、この世から消えた。今は特に気になるものは残っていないので、訪れる意味もない。
そんなところに今更何の用だろう……?
「最近、『私は何か重大な忘れ物をしているんじゃないか』って思えてきてね」
「……重大な忘れ物?」
「精神的に安定しなかったり、物忘れが多かったり、習慣になっていることをスルーしてしまったりね。ラグナロク前はそんなことなかったから、透ノ国に何かを忘れて来てしまったんじゃないかと思ったんだ」
「そ、それはまたぶっ飛んだ発想だな……? 別にそこまで気にしなくていいと思うぞ? 何かあったとしても、メンテナンスしたり治療したりして対処できるだろ?」
そう言ったのだが、兄の表情は変わらなかった。食べ終えたうどんの箸を置き、こちらに問いかけてくる。
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