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第1746話

「お前、覚えてる? どうやってラグナロクが終わったのか。どうしてお前が今こうして存在できているのか」 「え、それは……兄上が俺を助けてくれたからで……ラグナロクは何かこう、何だかんだやってたらいつの間にか終わってて……あれ?」 「曖昧でしょう? 実は私もなんだよ。いや、覚えてることは覚えてるんだけど、肝心なことを忘れてるような気がしてならない。もしかしたら石板を壊した呪いが未だにかかっているのかもしれない」 「石板の呪い……?」  怪訝に眉を寄せたら、兄は苦笑しながら言った。 「ああ、お前はそれすら覚えていないのか。お前、予言の巫女と一緒に石板壊しちゃったもんね。導きの石板を壊してラグナロクが終わったはいいけど、お前はその時に消滅しちゃったんだ。私も、お前のことはしばらく忘れてた」 「いや、それは知ってるけど……。その石板の呪いが兄上の言う『重大な忘れ物』に関係しているのか? 重大な忘れ物って、具体的に何なんだ? 今更透ノ国に行くほどのことなのか?」 「…………」 「俺からすれば、兄上はラグナロク以前と変わらないように見えるけどな。実力も変わってないし、精神的に不安定とも思わない。何が起こるかわからないようなリスクを冒してまで透ノ国に行く必要はない気がするが」  そう止めてみたが、兄の表情は硬いままだった。  食後のコーヒーを一口飲み、淡々とした口調で語ってくる。 「以前はね……お前がピンチに陥ったらどんなに離れていても勘でわかったんだよ。具体的な映像が見えるわけじゃないけど、一種の第六感というのかな……誰かに襲われたり、辛くて泣いたりしていると、『早く行かなきゃ』って居ても立ってもいられなくなる。少なくともラグナロク前は、その第六感が当たり前に働いていた。でも最近、その勘がまるで働かないんだ」 「え……そうなのか……?」  兄は無言で頷いた。やや視線が下向き、落ち込んでいるようにも見えた。

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