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第1748話

 第六感なんて、なくても死にはしないじゃないか。そもそも、そんな勘なんて持ってないのが普通じゃないのか。  俺は元々泣き虫で弱いから、洞窟でも幻聴に惑わされてメソメソ泣いてしまうけど、だからといって生きて帰れないわけではない。連れ去り未遂にしても、結果的に無事で済んだのだからそれでいいではないか。仮に助けられなかったとしてもそれは兄が悪いのではなく、油断していた自分が悪いのである。  だから、今更そんなところに行かないで欲しい。自分を置いて離れていかないで欲しい。兄を待ち続けるのはもうたくさんなのだ。どうしても行きたいのなら、せめてトーナメントが終わるまで待ってくれないだろうか……。  と思ったけれど、ここで頭ごなしに「嫌だ」と言ったらまた喧嘩になってしまうかもしれない。  なのでアクセルは、あえて兄の意志を確認するように繰り返した。 「それで透ノ国に行こうと思ったのか……」 「そうだよ。第六感が腐ったままなのは困るからね。なるべく早く行ってくるつもり」 「でも、あの……そんなに急がなくてもいいんじゃないか……? 俺の死合いもあるし……」 「いや、こういうのはなるべく早い方がいいよ。放置している間に、お前がピンチになったら取り返しがつかないじゃないか」 「それは……」 「だから、明日にでも行ってくるね。お前の死合い前には戻ってくるつもりだけど、間に合わなくても決勝戦は頑張りなさい」 「えっ……!?」  一方的に決められて、さすがに絶句してしまった。  ――兄上……本気なのか? そんな軽い気持ちで行って、帰って来られなくなったらどうするんだよ……?  獣化の治療をしたり、魂のメンテナンスをしたりするのとはわけが違うのだ。無事に戻れる保証はない。間に合う・間に合わない以前の問題だ。  どうやって兄を止めようか、ああでもないこうでもない、この言い方はダメだ……と必死に考えた結果、アクセルはこんなことを口にしていた。 「……だったら俺も行く」 「は?」

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