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第1749話

「兄上と透ノ国に行く。それで、俺も忘れていたものを取り戻してくる」 「いや、お前……何言ってるの? お前は決勝戦がまだ残ってるじゃない。いくら勝てそうにないからって不戦敗はダメだよ」 「確かに、今の時点ではケイジ様に敵わない。でも透ノ国で力を取り戻したら、もしかしたら一撃入れるくらいのことはできるようになるかもしれないじゃないか。俺も忘れていることがたくさんありそうだし、いい機会だから兄上について行く」 「あのねぇ……」 「嫌なんだよ、もう。兄上と離れるのは」  そう言ったら、兄は無言でこちらを見返してきた。 「治療とかメンテナンスだったら、まあ……いいよ。世界樹(ユグドラシル)で繋がってるし、その気になれば現場に乗り込むこともできる。でも透ノ国は、世界樹(ユグドラシル)と繋がってないんだ。行くことはできるけど、帰る方法はよくわからない。そんなところに行って、万が一兄上が帰って来られなくなったら……兄上と永遠に離れ離れになってしまったら、俺は……」 「アクセル……」 「……大袈裟だと思うか? でも俺は不安で不安でたまらないんだ。兄上と離れる度に、自分の半分がポッカリなくなってしまうようで……あなたと死に別れたらどうしようって、そればかり考えてしまって……」 「…………」 「だから一緒に連れて行ってくれ。それで、死合いに間に合うように帰ってこよう? 一人じゃ解決できないことでも、二人いれば何とかなるだろ」  必死に自分の気持ちを主張する。  兄はあまりいい顔をしないだろうが、アクセルもここだけは譲るつもりはなかった。  本当は透ノ国なんかに行って欲しくない。でも兄がどうしても行くというなら止められない。  ならば、自分もそれについて行く。そして死合い前に戻ってくる。これしかない。 「……ホントに、お前って子は」  兄が半ば呆れながら苦笑した。そして諦めたようにこう言った。

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