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第1751話
「でも透ノ国は何が起こるかわからない。帰ってくるのに何日かかるかも不明だ。だからピピは、しばらく故郷に帰っていて欲しい。そして家族と一緒に生活していてくれ。俺たちがこっちに戻ってきたら、山に迎えに行くよ」
そう言ったら、ピピはゆっくり身体を起こした。
そしてじっとこちらを見つめつつ、たどたどしい口調で言った。
「ピピもいく」
「え?」
「ピピ、いっしょにいく。アクセルと、すかしのくに、いく」
「え……いいのか? 透ノ国は何が起きるかわからないし……最悪、帰って来られるかもわからないんだぞ?」
するとピピは、ぶるぶると首を横に振った。
「ピピ、まえも、すかしのくに、いった。かえりかた、わかる」
「えっ、そうだっけ……? 俺、その辺りのことあまり覚えてなくて……。どうやってこっちに戻ってきたかも曖昧なんだ……」
もっとも、自分は石板を破壊してその場で消えてしまったので、思い出すも何もないのだが。
一方の兄は無事生還したものの、その辺りの記憶が曖昧になっているらしく、どうやって帰ったかはイマイチ覚えていないそうだ。石板を壊した本人ではないのに、記憶が曖昧になるというのもおかしな話である。それだけ石板の呪いは強かったということだろうか。
ピピは続けた。
「ピピ、アクセルのあしになる。ピピにまかせれば、アクセル、あんしん」
「そ、そうか……。そういうことなら心強いな。俺たちが迷子になった時は、ピピが道案内してくれ」
「ぴー♪」
嬉しそうに頷くピピ。
兄にも事情を説明し、ピピと三人で透ノ国に行くことになった。
未知の領域に足を踏み入れることを考えたら、緊張してその夜はよく眠れなかった。
***
翌朝、アクセルはしっかり戸締りをして世界樹 の前まで行った。そして複雑な道を通り、大渓谷に辿り着いた。
「う……相変わらず底が見えない……」
吹き荒ぶ風に当たりながら、大渓谷をそっと覗き込む。
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