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第1752話
見ているだけで身体の芯がヒュッと縮み上がるし、岩肌もゴツゴツしていて違う意味でも心配になった。落ちている途中で、岩に頭をぶつけて即死したらどうしよう。
「というか、吊り橋も落ちたままなのかよ。ラグナロクが終わってしばらく経つのに、何故誰も修理してないんだ?」
「修理する必要性を感じなかったんじゃない? こんなところ、普段は誰も通りかからないだろうし」
と、兄がしたり顔で顎に手を当てる。
「そういやお前、高いところ苦手だったっけ? 以前吊り橋渡る時もちょっとビビってたもんね? 恐いならお兄ちゃん、お前を抱えてダイブしてあげるよ?」
「い、いや……それは多分大丈夫、だと思う……」
高いところが苦手という意識はないのだが、底が見えない谷を目の前にすると、やはり未知の恐怖が襲ってくる。
――兄上はよく平気でいられるよな……。
もともと胆力があって怖いものなんてほとんどない人だけど、地に足がつかない場所って本能的に怖くなるものだと思うが。ピピだって谷の縁で縮こまっているし。
「さて、そろそろ行こうか」
兄が当たり前のようにこちらを振り返る。
優しく手を差し伸べてくれたものの、アクセルはすぐに手を握り返すことができなかった。
「ええと……ちょっと待ってくれ。まだふんぎりがつかないというか、心の準備がな……」
「ありゃ、そうなの? でもここでモタモタしている方が時間がもったいない気がするけど。お前がそういう感じなら、お兄ちゃん先に飛び降りちゃうね」
「……えっ?」
「お前も早くおいで」
そう言って、大渓谷の縁に立つ兄。
そしてくるりと振り向くと、両手を広げつつ、微笑みながら背中からダイブしていった。
「えっ!? ちょ、ちょっと待ってくれ兄上! そういう落ち方は……うわっ!」
慌てて手を伸ばしたものの、一歩遅くその手は空を切ってしまう。
兄を追いかけた身体の勢いは止まらず、アクセルもそのまま放り出されるように谷底へ落ちて行った。
「うわぁぁ――!」
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