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第1753話

 悲鳴を上げたはずなのに、落ちていく勢いに掻き消されて自分の声が聞こえない。  周りの景色も真っ暗になってきて、先を落ちている兄の姿も見えなくなった。  ――怖い……。  このまま死んでしまったらどうしよう。兄と死に別れたらどうしよう。こんなことなら、兄と一緒に飛び降りればよかった。  でも、落下している最中ではどうすることもできない。透ノ国で合流できることを信じて、このまま落ちていくしかない。  ――兄上……!  風圧で開眼できなくなり、アクセルは固く目を閉じた。  次第に落ちている感覚もなくなっていき、いつの間にやら意識もなくなっていた。 ***  奇妙な夢を見た。今まで一度も見たことがない夢だった。  何やら工場のような場所にいて、そこには予言の巫女とグロアがいる。彼女たちの目の前には、特殊なカプセルに入った胎児がズラッと並べられていた。  ――何だこれ……?  パッと見ただけでも何となく嫌悪感を抱くような光景である。  どの胎児も見た目が違っていて、髪色も様々だし肌の色も微妙に違った。生まれたばかりの胎児を片っ端から攫ってきたのか、何やら嫌な予感がする。  というか、彼女たちは一体何をしているんだ? 品定めみたいに胎児たちを眺めているけど、一体何のために……? 「相変わらずあなたは、こういう作業が得意よね」  と、巫女が腰に手を当てる。 「典型的なインドア派というか。物作りが得意というか。ちょっとエルフたちに似てるところがあるんじゃない?」 「誉め言葉として受け取っておきます。一応、今回のご希望に沿ったものを複数体作ってみました」 「ありがとう」  巫女が試しにカプセルをひとつ手に取った。中の胎児を眺め、不服そうに首をかしげる。 「ねえ、これ薄い金髪なんだけど。何でこんな色にしちゃったの?」 「ああ、それは試しに作っただけです。前回のコピーも必要かと思いまして。他の個体は全部もっと髪色を濃くしてありますよ」 「ならよかったわ。前回と似た色だと見分けがつきにくいからね」  素っ気なくカプセルを戻す巫女。

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