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第1754話

 そのやり取りを眺めていたら、だんだん指先から血の気が引いてきた。  ――ちょっと待て……。まさかグロア、胎児を(さら)ったんじゃなく自分で胎児の身体を作ったのか……?  そんなことができるのか……? と驚愕したものの、グロアなら可能であろうことに気付く。  何せ彼女は、自分の隔離施設で兄のコピーを大量に作っていたのだ。そのコピーに魂を入れて、巫女を復活させられないか実験を繰り返していたのだ。それができるのなら、兄よりも小さい胎児の身体を作ることくらい朝飯前だろう。  でも……でも、それが可能だとして彼女たちは一体何のためにこんなことをしているのだ? この胎児は将来誰になるのだ?  そもそも、この夢は本当に起きたことなんだろうか。あくまでファンタジーな夢じゃないのか? いや、そうであって欲しい……。 「それにしても、赤ん坊の状態じゃ可愛いかどうかなんてわからないわね。顔つきとか、全部同じに見えちゃう」  そう巫女が嘆くと、グロアは軽く首を傾けた。 「なら最初から成人状態の身体を作った方がよかったのでは? それなら見分けもつきやすいと思います」 「見分けはつくけど、中身を作るのが大変じゃない。成人の魂を作るのは手間がかかるのよ?」 「そもそも中身は必要なのでしょうか? この子たちは、あなたの代わりに石版を破壊してもらうために作っているんですよね? 言わば身代わりです。下手に生物らしく作らない方がいい気もしますが」 「でも、機械的なものを作ったら私が逐一管理しなきゃいけないじゃない。そんなの面倒臭いわ。だったらある程度自我を持ってた方がいいと思うの。少なくとも、自分で寝て起きて物を食べて生活できるくらいにはなってもらわないと」  聞いていて、だんだん胃の辺りがムカムカしてきた。  相変わらずこの女は――予言の巫女は、自分のことしか頭にないようだ。新しい命(?)を生み出そうとしているのも、全ては自分の身代わりとして利用するため。世話する気もないし、思い入れの欠片もないらしい。  そんな巫女に協力しているグロアもどうかと思うが……。

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