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第1756話

「そう、ならこれにするわ。他の身体はいらないから、適当に処分しちゃって」  ぺこり、と頷くグロア。そして余ったカプセルを全部乱雑に台車に乗せ、どこかへ運んで行った。  巫女は選んだカプセルに、用意しておいたオレンジ色の光を掲げた。  オレンジ色の光はカプセル内の赤子に吸収され、まばゆい光を放った。  ――うわっ……!  アクセルが目を覆った途端、周囲が真っ白に染まった。  見ていた景色もなくなり、どこかから自分を呼ぶ声が聞こえてくる。 「アクセル!」 *** 「アクセル、起きなさい」 「ハッ!?」  兄に身体を揺すられ、アクセルは我に返った。ガバッと起き上がって周囲を見回したら、そこには穏やかな原っぱが広がっていた。夢で見た場所とは全然違う。 「大丈夫かい? 随分うなされていたみたいだけど」 「あ……え……」  兄がこちらの顔を覗き込んでくる。プラチナブロンドの綺麗な金髪に、美しく整った顔がそこにあった。 「兄上……?」  恐る恐る手を伸ばしたら、兄のなめらかな肌に触れた。  存在を確かめるように、他にも腕や肩、胸元に触ってみる。筋肉のつき方から触り心地まで兄そのものだったので、少しホッとした。どうやらこれは夢ではなさそうだ。 「……よかった……」 「? 本当にどうしたの? 幻影かと思った?」 「い、いや……その……またちょっと妙なものを……」 「なんだ、変な夢でも見たの?」 「っ……!」  一言で表現するのなら「変な夢」なのだろう。  だが普通の夢よりおぞましく、妙にリアルで、まるで過去にあった出来事を見ているかのようだった。ちょっと思い出すだけでも寒気がする。 「う……」  急に吐き気が込み上げて来て、アクセルは草むらに向かって咳き込んだ。何も出てこなかったが、胃のムカムカが治まらなかった。  ――ああ、くそ……。  夢ごときに現実の気分を左右されたくないのに。ましてや巫女とグロアによって気分を掻き乱されるなんて、腹立たしいことこの上なかった。

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