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第1759話
「透ノ国には、もともと予言の巫女しか住んでいなかったんだ。でもラグナロクで消えちゃったから、とうとう誰もいなくなった。もし誰かがいるとしたら、それは目の錯覚か幻影、あるいは間違って迷い込んじゃった誰かだよ」
「そうか……」
「そもそも、こんなところに間違って迷い込むような人なんていないけどね」
休憩は終了とばかりに、兄が立ち上がった。
「それよりも私は、これより更に下に何が広がっているかの方が気になるな」
「……これより更に下っていうのは?」
「大穴の下の地下世界のことだよ。お前も、今まで歩いてきた中で何度か見てきたでしょう? 小島の真ん中に結構な大穴が空いているのを」
言われて、アクセルは顎に手を当てた。
探索してきた小島の中に、いくつかそういう穴が空いていたのは事実だ。うっかり落ちたら嫌なので、なるべく遠回りをして歩いたものである。
ただ、それが更に下に通じる道だとは思わなかったし、何ならただの落とし穴だと思っていた。
「それ、地下世界への入口だったのか……。俺はてっきり、その世界で落とし穴を作ったんだと思ってた」
「お前ねぇ……落とし穴だったらもう少しこう、罠っぽく仕上げるでしょ。あんな剥き出しの状態で大穴を放置したりしない」
「そ、それはそうだが」
「ひとつの小島だけに存在しているならともかく、他の小島にもちょいちょい同じような穴があったしね。それはさすがに不自然でしょう。だからあそこから、更に下に潜れるんだと思う」
「それは……」
この口調から察するに、兄は地下世界へ下りていく満々のようだ。
確かに、小島を歩き回ってもこれといった収穫はなかったし、これ以上のものを求めるなら地下世界へ下りていくしかない。兄が行くというのなら、アクセルもついていくつもりだった。
でも……。
「……なんかすごく嫌な予感がする。あの夢みたいに、とんでもない実験の痕跡が見つかったらどうしよう」
「あの夢って、お前が目覚める前に見ていた夢かい?」
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