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第1767話

 グロテスクな姿を晒していた頭はそのまま動かなくなったが、真っ二つになった脳髄からポゥ……と二つの光が浮かび上がってきた。 「あ……?」  蛍のような光はふわふわとこちらに下りてきて、それぞれアクセルと兄の胸元に止まった。  そしてすうっ……とごく自然に体内に入っていき、こちらの一部として吸収された。  ――ああ、これは……。  全身がじんわり温かくなる。足りなかったもので満たされていくような、そんな奇妙な満足感が指先まで伝わってきた。根拠はないが、今なら上位ランカーとも対等に戦える気がする。  兄がしみじみと呟いた。 「……何だろう。上手く言えないけど、やっと欠けていた部分を補えた気分だ」 「ああ、俺もだよ」 「頭がハッキリするっていうのかな。ラグナロク前の感覚に近いというか、調子を取り戻したというか……『ああ、昔の私ってこんな感じだったね』みたいな」 「詳しいメカニズムはわからない。でも俺が石板を壊したせいで、魂の一部が欠けていたままだったのは何となくわかる。全然自覚していなかったが、今最高傑作とやらの魂を吸収して、ようやく自分が『欠けていた』ことに気付いたよ」 「ふむ。しかしまあ、何とも奇妙な話だね。化け物の身体から二つの魂が出てきたのも不可思議だ」  兄は少し首をかしげて、近くにあったファイルやレポートを閲覧し始めた。  アクセルとしては早いところ帰りたかったのだが、兄は真相を確かめるまで帰る気配はなさそうだった。 「あの……兄上、もうやることは終わったんだしそろそろ……」 「うん、もうちょっと。これを逃したら、二度と透ノ国には来ないだろうしね」 「それはそうだが……」  体液で濡れた衣装が気持ち悪い。ヴァルハラが今どうなってるかも気になるし、死合いに間に合いそうなら早く帰って準備をしたかった。  ピピも入口で待ちくたびれているだろうし……。 「ああ、なるほどね……」 「? 何がなるほどなんだ?」

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