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第1770話
アクセルは恐る恐るピピに目を向けた。
「ええと……まさかあの木を登るとか、言わないよな……?」
「ぴー」
「……え、本当に?」
確認するように兄の方も見たのだが、兄もしたり顔で頷いた。
「そうだよ。あの木をある一定のところまで登ると、ぶわーっと周りが白い霧に覆われてきて、いつの間にか元の世界に帰ってるんだ」
「そ、そうなのか……? それはまた摩訶不思議というか……どこかの童話みたいだな」
「面倒だよね。あんな木で地上に戻るなら、最初から世界樹 に繋いでおいてくれればいいのに」
それは全くその通りだ。行くのも帰るのも一苦労だから、より一層透ノ国に人が寄り付かないのではないかと思う。
――あの実験施設は、誰も来ないことの裏返しか……。
どうせ自分たちしかいないから、やりたい放題にやってたのかもしれない。
いっそ施設をまるまる爆破しておけばよかったかも……と、考えかけた。もう誰も使わないんだし、あんなおぞましい施設を残しておいてもしょうがない。
まあ、今更爆弾を仕掛けてくるというのも面倒なのでやらないけど。
「じゃ、今度こそ帰ろうか」
兄に導かれ、複数の小島を渡ってアクセルは大樹の前まで来た。
根本から天を見上げてみたが、本当に先が見えない。ある一定のところから先は雲に覆われているみたいにモヤモヤしており、どこまで登ればあそこまで辿り着けるのか見当もつかなかった。
――本当にこんなところ登り切れるのか……? いくら何でも無理なんじゃ……?
不安に思って兄を見たら、兄は当たり前のようにピピの背中に乗っていた。
そして促すようにこちらにも声をかけてくる。
「何をボーッとしているんだい? お前も早く乗りなさい」
「……えっ?」
「まさか自力で登ると思った? さすがにそれは無理だよ。途中で力尽きて落下死するのがオチだ」
「そ……そうだよな……」
「でもピピちゃんなら、上まで登っていける。さすが、うさぎの脚力は伊達じゃないね。そう言えば、石板破壊後に地上に戻る時もお世話になったかな」
「ぴー♪」
ピピが誇らしげに頷く。
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