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第1771話

 そういうことなら、とアクセルも兄の後ろからピピの背に跨った。 「じゃあ頼むぞ、ピピ。帰ったらうんとご褒美あげるからな」 「ぴー!」 「お前も、振り落とされないように気を付けなさいよ?」  兄に釘を刺され、しっかりとピピにしがみつく。  ピピが軽快な足取りでぴょんぴょん幹を登り始めた。ピピの足は特殊な作りになっているらしく、ほぼ垂直の木でも滑らずに登っていけるみたいだった。うさぎのように見えるが、ピピもいい意味で摩訶不思議な生き物である。  そのまま一生懸命ピピに掴まっていると、次第に周囲が白く霞み始めた。  ああ、やっとヴァルハラに帰れるんだ――そう思った時、急にピピを掴んでいる感覚がなくなって、ふわっと全身が浮き上がるような心地がした。  目を開いても真っ白で何も見えず、目の前にいるはずの兄の気配が感じられない。  ――兄上、ピピ、どこだ……!?  空間で必死にもがいていたら、急に身体の重みが戻ってきてドスン、とどこかに尻餅をついた。  それと同時に視界も開け、大渓谷前の荒野が見えてきた。 「うん、戻ってこられたね。みんな無事でよかった」 「あ……」  目の前で、兄が腰に手を当てて立っている。  ピピもこちらに身体を擦り寄せ、褒めてくれと言わんばかりに甘えてきた。 「あ……ああ、そうだな……。ありがとう、ピピ。きみのおかげで戻ってこられたよ。木登りお疲れ様」 「ぴー♪」  立ち上がり、改めて周囲を見回す。  底の見えない大渓谷も、やや薄暗い空も、荒れたままの大地も、全部以前のままだった。 「本当に戻ってこられたのか……」 「うん。何だかんだで、ほとんど危険もなかったね。もっとこう、とんでもない試練が待ってるかと思ったけど」 「地下の研究施設には驚かされたけどな……。でも無事に戻ってこられて本当によかった……」  ほう……と長い息を吐く。  そうして気を抜いた途端、急にお腹が空いてきた。喉も渇いてきた。透ノ国で飲み食いをするのは危険なので、休憩中もなるべく水を飲まないでおいたのだ。

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